

つい先日、フィリピンのボホール島にある「ノバビーチリゾート」というところへ行ってきた。手つかずの自然が残るビーチに建つコテージに宿泊し、一日3本ダイビングを楽しんだ。新米ダイバーには現地のスタッフが付いてくれるので本当に安心。しかもこのリゾートは河村佳明さんという日本人オーナーが設計から運営までを取り仕切っているので、海外にいる不安感もない。河村さんは建築士だったが、海に魅せられ、ご自分で見つけだしたこのビーチにダイビングリゾートを築いた。実に静かで居心地がいい。
話を聞けば、日本人がここに施設を建築するのは至難の業だそうだ。たとえば保全されているビーチのそばには船着き場もコンクリートの柱も建ててはならないといった厳しい決まりがある。豪華なリゾートにするには、ダイバーを乗せるボートを着けられる桟橋も欲しいし、海を見晴らせるビーチレストランも建てたいのに、できない。そこで発送をすべて逆転させ、沖にいるボートまでは「手漕(こ)ぎのいかだ」で岸から送り迎えをする方法をとった。これがなんとも素朴で、かえって人気となった。また、ビーチの崖上には、竹材や流木を使って手作りで地元民家風の木造レストランを築きあげた。これもムード満点だ。台風がくれば吹き飛ぶおそれがあるが、神の助けか、2004年開業以来まだ大風に襲われていない。
まだまだ苦労がつづきそうだが、魂の避難所のようなこの手作りリゾートを気に入る日本人客も着実にふえている。河村さんはセブ島のリゾート設計を頼まれフィリピンに出かけたが、すっかり気に入って自分のリゾートを創ろうと決心した。
そういえば、ニューギニアのウエワクという秘境へ行ったときも、思いもかけず日本人オーナーの川端さんが切りもりするホテルに泊まったことがある。まるで仙人みたいないでたちの川端さんは、人間魚雷「回天」に搭乗を命じられた太平洋戦争の生き残りである。戦後は世界を流れ流れたあげく、潰れかけたホテルの経営を任された。以来22年間、必死に借金を返し、いまは町で一、二をあらそうホテルに育てた。ここへ来る日本人はたいてい川端さんにお世話になる。異国で楽園を築く日本人に会えることほど、うれしい体験はない。
(2008.02.25)

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)
1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

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