
昨年、ほぼ半世紀ぶりに東京・板橋第七小学校で同級だった吉村健正くんに再会した。テレビ番組のスタッフが探してくれたのだが、小学生のときにはわからなかった板橋の秘密を教えられた。吉村くんの実家はレンズ工場で、おとうさんが独自の工夫を重ねて精密なレンズを開発したのだった。当時は大学の先生すらその技術に驚いたそうだ。
じつは、アラマタの本家は戦前から板橋区宮本町にあった。父は祖父の工場で働いており、金属加工機を操作する名人だったらしい。海軍が砲弾の部品をわざわざ発注に来たこともある。吉村くんの家も町工場で、おとうさんが「ものづくりの名人」だったわけで、お互いの境遇のつながりを知った。
そして、この一件には板橋区という土地柄が関係していた。板橋は今なお東京でもっとも工場の多い地区のひとつだからだ。様々な業種の工場が寄り集まったので、名人が生まれ、新技術の開発が可能になった。
その夜、吉村くんとは、思いがけなく工場王国・板橋区の昔話で盛り上がった。だが、奇遇はまだつづいた。なんと、非鉄金属をあつかった我が家とレンズづくりの吉村くんの会社とは、以前に取引もあったそうなのだ! 板橋が「ものづくり」を極める町だったからこその奇遇だ。
(2008.03.24)

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)
1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。