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「どらく編集委員」通信

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杉浦千里の博物画 どらく編集委員 荒俣 宏さん

2009年3月17日から23日まで、横浜市神奈川区民文化センターの「かなっくホール」で「杉浦千里展」が開かれる。8年前に39歳の若さで亡くなった杉浦さんは、ウルトラマンシリーズのキャラクターデザイナーとして知られるが、じつは本格的な博物画の作者でもあった。晩年は部屋にこもって、甲殻類の鬼気せまる細密画制作に没頭していた。わたしは縁あって、ご遺族にお目にかかり、杉浦さんの博物画を直接見る機会を得たのだが、ほとんど独学で描いたという動物の彩色画には、言葉にならないほど驚嘆させられた。

博物画は主に図鑑に用いられるが、極端な正確さがもとめられる。魚の鱗(うろこ)一枚、ひれの条一本も、実物どおりに描かねばならないので、普通は大学や博物館の研究者の指導を受けながら仕事をしなければならない。しかし、杉浦さんはそれを自力で極めようとした。最初は出版社から手厳しくダメ出しをされ、悔し涙にくれたこともあったという。それでも、粘り強く制作をつづけ、甲殻類という魅力的な生物への愛着を力として、おそらく大英博物館やスミソニアンの博物絵師に匹敵するほどの完成度に到達するに至った。近年ではほぼ消滅したと思われる博物画の新しい星が、さぁこれから煌(きらめ)こうとした矢先、杉浦さんは急逝された。大きな損失といわねばならない。

残念なことに、わたしは杉浦さんとは生前に会ったことがない。博物画の傑作群が、出版などを通じて一般の目に触れることが少なかったから? いや、実をいうと、細密画の極致ともいえる博物画のすごさは、原画を見なければ到底伝わるものではない。そして、やっと、その本領が眺められる原画展示会が開かれることになった。初めて展示される作品も多い。わたしはルーペを持参して、会場で「最後の博物画」をじっくりと楽しみたい。

(2009.01.26)

荒俣 宏

プロフィール

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)

1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

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