ひとり暮らしで心配なのが認知症。すぐに頼れる家族がそばにいないだけに、備えが気になります。
「初めは、会議の議事録が書けなくなったんです」
関東に住む50代の男性は約10年前のことをそう振り返る。要点をうまくまとめられなくなったという。
コンピューター関連会社のシステムエンジニアだった。しかし、パソコンへの入力が徐々に遅くなり、配送の仕事に配置転換。そのうち、台車を配送先に忘れてしまうように……。
5年ほど前に認知症と診断された。財布やかぎをそのへんに置くと、どこにあるかわからなくなる。メモを持って外出しないと、何を買うのか忘れてしまう。
それでも、週3回ヘルパーに掃除などをしてもらいつつ、ひとり暮らしを続けている。人に気を使わずゆったり過ごせる分、楽だという。週に1度は郵便物のあて名張りなど軽作業のボランティアにも出かける。
「なるべくストレスを感じさせない環境を整え、力を発揮できるようにするのがポイントなんです」と、認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子・研究部副部長は話す。
認知症の中核症状は、記憶や判断の障害だ。歩き回ったり声を荒らげたりするのは、実は認知症そのものの症状ではない。周囲の理解がなくミスを責めるなどでストレスが増すと、そうした周辺症状が悪化する=図。早期発見が大切だ。
とはいえ、自分では気づきにくいのが認知症の特徴だ。ひとり暮らしの人はどうすれば?
「趣味でもスポーツでもいいので、ふだんから人づきあいを大事に。お互いの変化に気を配れますから」と永田さん。国内で200万人、85歳以上では4人に1人が認知症とも言われる。これからはみんなが当たり前のこととして考えておく必要があるという。
自分の状態が気になったら、かかりつけ医や近くの地域包括支援センターに相談しよう。元気なうちに一度センターをのぞき、場所や雰囲気を知っておくのもよさそうだ。
男性は、物の置き場所を決め必ずそこに置くことや、商品配列が覚えられなくても店員に遠慮なく尋ねることなどを心がけている。永田さんは「不便さばかりに目を向けず前向きに考えれば、ひとり暮らしも不可能ではない」と言う。
もちろん、症状が進めば財産管理や契約が難しくなることも。そんな時に利用できるのが成年後見制度だ。判断力が低下してから本人や身近な親族が裁判所に申し立てる法定後見と、元気なうちに自分で後見を頼む人と契約しておく任意後見の2種類がある。
「任意後見はすぐにも準備できる。定年のころが検討の目安」と言うのは、成年後見センター・リーガルサポート東京支部で幹事を務める司法書士の稲岡秀之さん。脳出血で倒れ、「もうあんな怖い思いはしたくない」と、相談に訪れた50代の女性もいたという。「遺言に比べまだあまり広がっていないが、知ってさえいれば選択肢の一つになる」
司法書士でつくる成年後見センター・リーガルサポート(03・3359・0541、ホームページ)は9月から11月にかけて、全国各地の支部で成年後見制度に関する無料の相談会を開く。東京支部では「敬老の日」の9月21日に無料電話相談も設ける。リーガルサポートは、任意後見契約の際に判断力が低下して後見人が必要となるまでの間、定期的な連絡で様子を見守る「見守り契約」(有償)などのメニューも用意している。
9年前に妻を見送った。現役時代は忙しく、家のことは任せきり。定年後、4回の海外旅行が大切な思い出だ。亡くなってしばらくは何も手につかず、夕方になると寂しさに襲われた。その後、子どもの近くに移り、長年習っていた能に加え、自治体のシニア大学にも通い始めた。だが、本当に孤独感を解消してくれたのは、「気ままサロン」(東京都)の仲間たちだ。連れ合いを亡くした者同士、子どもに話せばつらい思いをさせてしまいそうなことも話し合える。心の支えになってくれた皆に感謝したい。
(千葉県 男性 70代)
(更新日:2009年08月10日)
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