晩婚化や高齢化が進み、結婚前に親の介護に直面するシングルの人たちが出てきています。仕事との両立や結婚をどうするかなど、相談相手も少ない中、悩みは尽きないようです。
「例えば友達と飲み会中、『ちょっと帰って親のおむつ替えてくる』なんて言ったら、しらけますよね。行かない言い訳を考えるのがしんどくて、つき合いも減っていきました」。静岡県伊東市の理容師、苅谷祐司さんは父を介護していた頃を振り返る。
父が脳梗塞(こうそく)で右半身まひになったのは10年ほど前。静岡市で理容師として働き始めてすぐのことだった。同じ理容師の姉(39)が結婚することになり、看病していた母(62)も疲れがたまり、苅谷さんは理容店を営む実家に戻った。
いつ倒れるか分からない父をみながら、店を切り盛りする日々。当時はつきあっていた女性がいた。「でも、親の介護を思うと、次のステップを考えられなかった」と語る。
父を2004年に看取(みと)ると、母の体調が急に悪化した。持病の心臓病に加え、リウマチや悪性リンパ腫。歩行器が欠かせなくなり、要介護2の認定も受けた。
母は「早く結婚を」と言うが、休日、通院に付き添うと、ほぼ1日つぶれる。「でも、それを言ったらおしまいかな、って」
未婚や晩婚化に伴い、シングル介護は増えそうだ。総務省の就業構造基本調査でも、家族の介護や看護のために転職や離職した人は年々増えている=グラフ。
NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の牧野史子理事長は「最近は20〜40代の人からも、会社の昼休みに携帯電話やメールで相談が寄せられる」と話す。
シングル女性は特に、仕事を辞めて介護を引き受けるケースが少なくないという。同会では昨年から「母親を介護する娘の集い」を定期的に開き、ともに語り合える場を設けている。
自身もひとりっ子で長年、両親を介護してきた医療福祉ジャーナリストのおちとよこさんは「シングル介護者は煮詰まりやすい。ケアマネジャーなどに相談し、自分の時間や生活、将来を大切にすることを考えることが、結果的に良い精神状態で介護を続けることにつながります」と話す。
シングル介護の対象は、親ばかりとは限らない。北陸地方の女性(42)は、両親と認知症の祖母、重度の身体障害者の妹の5人暮らし。米の販売店を営む両親を手伝いながら、妹の食事の支度から、祖母のデイサービスの送迎まで、家事の大半を担う。
結婚を考えた男性もいたが、県外への引っ越しが前提だったため、あきらめた。インターネットの掲示板で、同じ境遇にある人の投稿を見ると、ため息が出る。「相手の親の反対で、破談になるケースが少なくないようで……」
障害のあるきょうだいがいる人たちでつくる「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」(略称・全国きょうだいの会)の田部井恒雄会長は「結婚や就職で家を出ることは、家族を捨てることではない。でも、幼い頃からきょうだいのために様々な我慢をしてきた経験から、『自分も幸せになっていいんだ』と思えない人が少なくない」と語る。
同会の会員で、昨年結婚した都内の団体職員の女性(31)は、知的障害のある姉がいる。学生時代から親亡き後は姉を養うのだと覚悟し、一生続けられる仕事を考えた。結婚はしないだろうと思っていた。
20代後半になり、ある勉強会で知り合った1歳上の男性とつきあい始めた。姉がいるとは伝えたが、姉の話をしないのを不思議がられ、思い切って打ち明けると、すんなり受け止めてくれた。彼の両親も「お姉さんの障害を、なぜ気にするの?」と言ってくれた。
同じ頃、新聞できょうだいの会を知った。先輩の会員から、姉が結婚式に参加する際、行政の付き添いサポートを利用できることなどを教えてもらった。
「夫や会の仲間など、相談相手がいるのは心強い。感謝しながら、家庭を築いていきたい」と女性は語る。
(前田育穂)
(更新日:2010年06月14日)
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