植物性ステロールが血中のコレステロールをどのように低下させるのか、そのしくみについて、植物性ステロール研究の第一人者である、九州大学・熊本県立大学名誉教授の菅野道廣さんに聞いた。

「私たちの体は、コレステロールを小腸から吸収するとき、胆汁酸ミセルに溶け込ませています。食事と一緒に植物性ステロールを摂取すると、コレステロールの代わりに植物性ステロールが胆汁酸ミセルに溶けこんでしまうために、コレステロールの吸収が抑制されます」
植物性ステロールが運び屋である胆汁酸ミセルに溶け込めるわけは、化学構造がコレステロールと似ているからなのだが、吸収されなかったステロールや胆汁酸ミセルに溶けこんだ植物性ステロールは、その後どうなるのだろうか。
「ミセルに溶けなかったコレステロールは、そのまま糞便(ふんべん)中に排出されます。ミセルに溶けた植物性ステロールは、一度は吸収されますが、ほとんどはすぐに腸管側に戻され、排泄(はいせつ)されます。つまり、腸には植物性ステロールを見分けるチカラがあるようで、植物性ステロールは吸収されずに排出されてしまいます。」
こうしてコレステロールの吸収は阻害される。とはいえ、分子生物学のレベルの、両者のほんのわずかな違いを見分ける腸の選別力は、見事というほかない。

植物性ステロールは、コレステロール値をどのくらい下げるのだろうか。 「これまで60例以上の臨床実験が行われてきていますが、植物性ステロールを1〜2カ月間摂取すると、ほとんどのケースで悪玉のLDL-コレステロールが10mg/dLは低下しています。といっても、正常範囲以下に下がることはありません。」
しかも、下がるのは悪玉のLDL-コレステロールだけ。善玉のHDL-コレステロールが下げることはないので、心配は無用だ。
「植物性ステロールは副作用が少なく、安全性の高い『天然の血清コレステロール低下剤』だと思っています。ですから、現在高脂血症で降コレステロール剤を飲んでいる方、それからスタチン系の薬剤でコレステロールが下がりにくい人も、薬と併用すると有効だと思います」
という高い評価だ。コレステロール低下能に優れ、少量で効果を上げ、効果が長時間持続する植物性ステロール(スタノール)の研究が進み、新しい特定保健用食品の有効成分として使われるようになっている。オランダには、植物性ステロール強化食品を使った被保険者には、費用の一部を払い戻しする保険会社まで出ており、植物性ステロールの有効性に関する認知度の高さがうかがえる。

出典: S.Seki et al., J. Oleo Sci., 52: 285-294(2003)より
九州大学・熊本県立大学名誉教授 菅野道廣さん
九州大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士。九州大学助教授、教授を経て、1997年より熊本県立大学教授、2000〜2004年同大学学長をつとめる。日本栄養・食糧学会名誉会員、加工油脂栄養研究会会長他。食餌(しょくじ)による脂質代謝の調節、植物性ステロールなど機能性成分による健康維持などに焦点を当てた研究を行ってきた。とくに植物性ステロール中のスタノールという成分に注目し、その有効性を世界に先駆けて研究発表した。
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