朝日新聞がビートルズ世代に贈る、こだわりエンターテインメントサイト

メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ホーム設定

Special Contents ひと

  • インタビュー
  • フロントランナー
  • トップ
  • 地球発
  • マネー
  • ライフスタイル
  • 極める
  • からだプラス
  • エンタメ

記事を印刷

極める

  • バックナンバー

有名人のお宝カメラ

あの有名人のお宝カメラ Vol.14 森村誠一さん デジタルカメラによる俳句の新たな表現

−−最初のカメラは?

手前が、学生時代から使っているというパールIV。年季の入ったケースと対照的に、一度も修理していないというがまるで新品のように状態がいい。後ろは右からオリンパスμ[mju:]ZOOM105、リコーGR10、パナソニックLUMIX DMC-FX8。記録として撮影するので軽くてハンディが絶対条件だという

19歳のときに1カ月分の給料をはたいて購入したパールRSです。高校卒業後、新橋の自動車部品会社で働いていて、配達中に御徒町(おかちまち)でよさそうなカメラ店を見つけましてね(笑)。休日に熊谷の自宅から買いに行きました。小西六(現コニカミノルタ)のレンズの評判は聞いていたけど、やはり解像力はよかったですね。会社を2年で辞めて大学に入り、趣味の山登りのため距離計つきのパールIVに買い替えました。当時、カメラを持っている学生はあまりいなかったですね。パールは頑丈で岩にぶつけても大丈夫。土日はほとんど山に行っていて、芸術写真というよりは記録で撮っていました。作家志望でしたから、「この風景は文章になりそうだ」と思うとシャッターを押すんです。そして風景のディテールをメモしていた。だけど時間がかかる。そこでテープレーコーダーに吹き込んだ。「霧がまろみながら立ち上がる」とか「出血しているような夕焼け」とかね。でも、そのうち写真一辺倒になりました。情報量が全然違いますからね。

墓石の上で気持ちよさそうに寝入る野良猫に、森村さんは「日向猫起こさぬままに墓参り」と詠んだ

−−パールIVから生まれた推理小説がありますね

「日本アルプス殺人事件」(72年)です。犯人がロールフィルムを逆向きに装填(そうてん)して撮影することで時間を逆転させるアリバイを築き上げるというトリックを思いつきました。ある日フィルムを入れようとして、もしかしたら逆に装填しても撮影できるかなと思い試したんです。写るんですね。それをネタに小説を書き上げました。パールIVは歴代カメラの中で、もっとも長く愛用した思い入れのある一台です。デジカメが出てくるまで使い続けていました。

最近はもっぱらルミックスFX8。それにテープレコーダーと携帯電話の三つは外に出るとき必ず持っていきます。「これは俳句になる」と予感が走るとカメラを構えるんです。5、6年前、俳句をホームページに掲載しましたが、コンテンツの中でいちばん地味でした。そこで雰囲気が出るようにと写真を組み合わせたところ、急にアクセス数が増えましてね(笑)。それからです。俳句を意識した写真を熱心に撮りだしたのは。

「斜陽まで吊り戻したり鉄の爪」。クレーンが落ちていく夕日を釣り上げている釣り竿に見えたという。発想がすごい

−−「写真俳句のすすめ」を出版され、その中で「俳句の写真は一期一会ではない」と書かれてますね

最近、家の近くで3機編隊の米軍戦闘機を撮りました。通常は2機編隊なので珍しいと思い、慌ててルミックスを取り出したんですけど、デジカメは起動が遅い。空の真ん中で撮るつもりが結局、遠方に小さくなった。電線の向こうに消えていく機影がオタマジャクシ(音符)に見え、「五線紙に戦闘モードの蝌蚪(かと)泳ぎ」と詠みました。オタマジャクシは俳句用語では蝌蚪といいます。頭上でのシャッターチャンスを逃したからこその一句となりました。その場でひらめかなくても、後で写真を見ていると言葉が出てくるんです。意外な別の俳句が穫(と)れることがある。俳句の写真は一瞬ではなく、持続性があります。

「五線紙に戦闘モードの蝌蚪泳ぎ」。「俳句になる」と予感が走るとシャッターを押す。言葉は写真を見ながら出てくることも多いという

−−写真俳句の魅力とは?

小説は小さなものを大きく膨らませる世界。俳句は17文字に凝縮させる抽象化の極地。正反対です。小説家が俳句を作っていると、ディテールを盛り込めなくて欲求不満になってしまう。その点、写真は情報量が多いので、写真俳句ではディテールを補えます。欲求不満もうまく解消されます(笑)。ぼくは近所での撮影がほとんどですが、句材は日常の身の回りにたくさんあります。写真と俳句のどちらが先でも構いません。俳写同格、合わせて一本という意識で作っています。写真俳句は似合いの夫婦に似てますね。(笑)

(更新日:2006年11月09日)

プロフィール

森村 誠一(もりむら・せいいち)

森村 誠一(もりむら・せいいち)

1933年熊谷市生まれ。青山学院大学文学部英文科卒業。10年間ホテルマンを経験した後、作家活動に入る。69年「高層の死角」で江戸川乱歩賞、73年「腐食の構造」で日本推理作家協会賞受賞。2003年日本ミステリー文学大賞受賞。ベストセラー作家となり、「人間の証明」「野生の証明」などが続けて映画化された。「棟居刑事の荒野の証明」「悪魔の飽食」「忠臣蔵」「刺客請負人」など推理小説、ノンフィクション、時代小説と幅広い分野で作品を発表している。また、「森村誠一の写真俳句のすすめ」「写真俳句の愉しみ四季の彩り」をスパイスから発売中。

画面トップへ

※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。

©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。