デザインと技術の進歩は切っても切れない関係にある。
たとえば小型電池が開発されなければ、iPodのような携帯音楽プレーヤーは生まれなかった。技術の進歩があるからこそ、これまでにないデザインが可能となったのだ。
そこで、今回の「生活とデザイン」では、インダストリアルデザイナーの山中俊治さんに、技術とデザインの幸福な出会いについて話を聞く。
山中俊治さん(やまなか・しゅんじ)
1957年愛媛県生まれ。1982年東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンターへ。91年から94年まで東京大学助教授。94年リーディング・エッジ・デザインを設立。エンジニアリングとデザインを「出会わせる」インダストリアルデザイナー。日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査副委員長、審査委員を歴任。2006年OXO社のダイコングレーターがグッドデザイン金賞受賞。2005年より多摩美術大学客員教授。
デザインというとアートに近いものと考えている人が多いかもしれない。だが、インダストリアルデザイナーの山中俊治さんは、「技術とアートを出会わせるのがデザイン」だと話す。
「グッドデザインとは、機能と美しい形の両方を兼ね備えたものです。人はアート寄りの人をデザイナーと呼び、技術寄りの人を設計者と呼びますが、そもそも両者を分割することがものづくりをしにくくしている感じがします。私が考えるデザイナーの仕事とは、人が使って心地よいものを探しあて、形にしていくこと。それには高い技術だけ、すぐれたアート感覚だけでは実現できません。ですから、私はできるだけ技術とアートの両方に首をつっこんでいます」
それでは、技術とアートが出会い、どういうデザインが誕生したのかを、山中さんの作品を題材に解き明かしてもらう。

非接触カードという新技術が開発されて誕生したのがSuicaの自動改札。この改札機の実用化のキーパーソンが山中さんだ。
「非接触カードとはいえ、読み取るには少々の時間が必要です。カードをかざすときに、いかに静止させるかはデザインで解決するしかありませんでした」
人は改札機というプロダクトの形から、どんな手がかりを見つけ、行動に移すのかを探りあてるために、試作を何台もつくり実験を積み重ねていった。
「いわば、しらみつぶしです(笑い)。美しい形をつくるための芸術家の試行錯誤は、ある意味自分との対話です。Suicaの自動改札の場合は、実験と観察による事実の積み重ね。行動心理学や認知科学といったサイエンスの仕事ですね。光らせてみたり、へこませてみたり……。どういうデザインが、<かざして静止する>という行動を直感的に起こさせるかを試しました。それで到達したのが、かざす場所を13度手前に傾けることだったのです」
今でこそ、誰もが当たり前のようにSuicaをかざして通っていくが、開発当時の1995年、被験者たちはカードを読み取る部分になかなかかざしてはくれなかった。そんな新しい機械を、誰もが使えるようなデザインに落とし込んでいくのが、インダストリアルデザイナーである山中さんの役割だった。
「当時は非接触で情報が読み取れるなど、誰も知りませんでした。けれど、今や常識に。テクノロジーの浸透が人の行動や生活を大きく変えるんですね。こうした常識が覆される瞬間、どういったデザインを生み出せるか。それがデザイナーが担うべき重要な課題なのです」
Suica改札機は、形が人の行動に及ぼす効果を科学的に検証し、デザインに落とし込んだプロダクツ。技術とデザインにはこんな出会い方もあるのだ。
サイエンスとデザインが予想外の幸せな出会いをすることもある。それが、アメリカのキッチン用品メーカーOXO社の依頼でデザインしたダイコングレーターだ。2006年のグッドデザイン金賞を受賞した作品でもある。
「人の手がつくるランダムさを応用して、劇的に使い勝手がよくなった大根おろし器です。大根おろし器は一台と言わず、数台ある家も多いですよね。けれど、使っているうちに滑って、うまくおろせなくなるけど、ダイコンの向きを変えるとまたおろせるようになる経験はありませんか?」
いろいろなおろし器を試すと、一番使い勝手が良かったのが、昔ながらの銅製のおろし金。なぜ優れているかを科学的に検証していくと、歯が規則正しく並んでいないからだとわかった。
「それに気づかせてくれたのが、物理学の本に書かれた『ランダムさの効用』の一節でした。機械で成型されたものは、規則正しく歯が並んでいるから、おろしているうちに歯の通り道のレールができてしまい、歯に大根がひっかからなくなってしまうんです。それで、手作りの銅製のおろし金にしかなかったランダムな歯並びを、コンピューターを使ってデザインしたのがダイコングレーターです」
まさに日常とサイエンスと先端技術によって誕生したデザイン。しかも、ツイードのような文様と絶妙な安定感をもたらす黒色ラバーのスロープが、見た目も楽しませてくれる。
「Suicaの改札機やダイコングレーターはサイエンス寄りのデザイン。誰もが同じように使えることを目指しています。それに対して、腕時計、OVO(オーヴォ)は意図的に思い切りアート側に寄ったデザインにしました。誰にでも使えることを目指すのではなく、共感してくれる人を探すプロダクツですね。そこがアート的なんです」
従来の時計は中心部から長針と短針が出ている。ところがOVOには針がない。中心に向かった突起が時間を指し示すのだ。
「イメージは金属の原始的な生き物。とろりとした液体のようなものが塊から触手が伸びて腕に巻き付き、人と一体化して共生する。そんな感覚をデザインしました」
時計は時間を知るための道具だが、ある種のアクセサリー。分刻みで時間が読めないとしても、不思議な形で好奇心を誘ったり、ぞくぞくする感覚を呼び覚ましたりするものであってもいい。
「けれど、ムーブメントの構造と技術に精通していないと、とてもこんなデザインを3万円台の価格では実現することはできません。OVOが搭載している円盤針構造も私が発案しました」
技術的なトリックと彫刻的な感覚が融合したOVOは、「技術とアートを出会わせるのがデザイン」という山中さんの考えを象徴している。
「これからのデザイナーには、アートとしての先端技術をあやつれるハイブリッド感覚が求められるようになるでしょう。技術に精通していないと、どこか無理を感じさせるプロダクトになってしまいますからね」
やはり、技術とデザインはどこまでいっても切り離せない関係にある。
先端技術が開発された当初は、私たちの生活に密接なかかわりがあるわけではない。だが、デザインの力によって、もっと近づきたい、使ってみたいという気持ちをかきたたせられることも。そんな目の前の未来に待ち受けている、技術とデザインの融合について、山中さんにうかがいます。

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