4年間、哲学講義に通っている磯岡さんの発表はさすが堂に入ったものだった。とはいえ、今回の合宿でいちばん難しいところだったので、磯岡さんはカントだけでなく、これまで学んできたヘーゲル、ハイデガー、フッサールなどをふまえて、自分が理解したと思える部分と、つかみ切れなかったところを、発表の終わりに正直に質問した。
「磯岡さん、やっかいなところを担当されましたね」と、西先生。「カントの考えを、この章だけで理解しようとすると難しいかもしれません。けれど、カントが何を言いたかったのかがわかれば、各章の役割が見えてきます。カントは『純粋理性批判』で証明仕切れなかった心の不安や神の存在を矛盾しないように説明しています」
すると、参加者がすかさず質問。「カントが神を信じているとは、私には思えません」。議論の本筋からはずれた内容でも、自由に質問をぶつけられる空気が講義にはある。合宿も中盤にさしかかると、講師と生徒が入り乱れて、議論がさらに熱を帯びていった。
磯岡さんコメント
できるだけレジメを切り、発表するように心がけています。発表のために力を入れて勉強しますから、聞くだけより、格段に理解が深まるんですよ。そう言えるようになったのも、この1年ほどですかね。初めはどこをまとめたらいいのやら、どう発言したらいいのやら、まったくわからなかったんです。難解な哲学用語の意味を知らなかったから苦労しました。それで、黙々と哲学書の文章そのままを写したりして、予習をしていました。3年間受講を続けると、よくわかるようになるんですよ。だから、4年間続けて、同じ先生たちの講義を受講し続けているんです。
1日目の締めは、恒例の飲み会。これまで講義用のレイアウトだった机を飲み会向けに並べ替え、参加者全員がお金を出し合って買ってきた飲み物やつまみを片手に懇親会に突入。参加者だけでなく先生たちの顔にも、哲学本来の意義である、お互いを理解する喜びの表情が浮かんでいた。
「高校生のころから哲学に興味があったのに、学ぶ機会を得られませんでした。けれど、竹田先生と西先生との素晴らしい出会いがあって、今は納得のいくまで物事の本質を探究する喜びを味わっています」
午後1時から夜9時半まで食事休憩以外はほぼぶっ通しのハードな講義なのに、磯岡さんの表情に疲れは見えない。それどころか、知的好奇心を満たされた軽い興奮から、昼より血色がいいぐらいだった。知的刺激は磯岡さんにエネルギーを与えているようだった。
「講義に出ると、必ず発見がある。特に、半期のまとめともいえる合宿では、先生方から<哲学すると、人はどう変わるのか>を教わっているんだと思います。竹田先生からも西先生からも、哲学は非常に有用で、みんなで共有するべき財産なのだという熱い思いが伝わってきて、それがまた学ぶ意欲を高めてくれるんです。とにかく、哲学を学ぶことが楽しい。言葉によって理解し、さらにレジメを切ったり、みんなの前で発表したり、自分の言葉で表現してみて、初めて哲学者の思想が腑(ふ)に落ちる。この瞬間の気持ちよさは、今の僕には何物にも代えられません」

竹田青嗣先生より
刻々と時代は変わっていくけれど、社会観の更新と人間のモラルの根拠を考えるのが近代哲学の中心課題。「哲学は終わった」という人もいますが、はたしてそうなのでしょうか。哲学のふたつの柱は、社会をどう考えるかということと、善とは何かという倫理の問題です。我々が生きている社会は多様化している分、モラルの根拠が希薄になっています。だから こそ、哲学の最大のチャンピオンであるカントやヘーゲルを読むことは、単なる古典探訪ではなく、人間のモラルの根拠を追い求めるきわめて現代的な問題でもあるのです。近代の人間のモラルの核は、自由の相互承認だと私は考えています。この講座で、人類にとって知の財産である哲学を少しでも知っていただきたいですね。
西研先生より
普段の生活では、生きることを深めて考えることが少なくなっています。けれど、哲学を学ぶと、他者と深く語り合い、理解し合うために必要なものなのだとわかるはずです。
私たちの講義では、できるだけ平易な言葉で哲学を読み解いています。カントやヘーゲルが生きた時代に突き当たった問題は、必ず僕らが抱えている問題と重なっていることがわかるでしょう。ですから、彼らが何を問題にしているかを理解できると、難解な哲学書を解読できますし、その知恵と富を今に応用できるんです。
朝日カルチャーセンター
お問合せ先:03-3344-1945
http://www.acc-web.co.jp/sinjyuku/index.html
磯岡さんが参加した講義
本の紹介
その他のコース
(更新日:2006年10月04日)
※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。