この講座で学ぶ身体の使い方の基本は「ふんばらないこと」。「力感(りきかん)」のない、脱力した状態に持っていくために、まずは背骨の動きを柔らかくしていく。
最初は仰向けになり、立てた膝(ひざ)を左右に動かして背骨をゆるめる。次はだるまのように前後に身体を揺らす……。そうやって背骨を丸めて、力を入れる場所の偏りが極力ない身体の感覚を目覚めさせていく。ウオーミングアップの最後は脚を軽く膝で組み、頭に引き上げる運動。
「みなさん、上半身に力を入れないでください。力まずに、楽に引き上げていきましょう」と、ウオーミングアップから受け身の練習までは、中島先生の助手を務める斎藤豊先生が担当。斎藤先生も甲野善紀氏から直接指導を受けた武術家だ。先生は楽々となめらかな動きで脚を引き上げていくが、生徒を見回してみると、滑らかさに欠けている人が目立つ。上手に脱力するのは、意外と難しそうだ。
ウオーミングアップが終わると、受け身の練習が約1時間続く。
「何回も受け身で転がっていると、力の逃し方がつかめるようになってきます。動きを止めてしまうと身体は大きな衝撃を受けますが、力の流れにまかせると避けられます。重力を上手に使うと、効率的に身体を使えるようになるんです」と、中島先生。
肩と腕を軸にしての後転を繰り返すが、生徒はみな楽しげ。子どもの頃は体育のマット運動だけでなく、自宅でもでんぐり返しをしていた。けれど、大人になって転がることはない。久しぶりの新鮮な動きが、身体を目覚めさせるのかもしれない。
次にペアを組んでの受け身の練習。大滝さんは後ろから相手の腕をつかむが、予想外に相手から脱力した動きをされて、ころんと簡単に転がされた。だが、大滝さんも力が入っていないから、これまたスムーズに受け身をとって転がって立ち上がる。何度も繰り返すうちに、動きの角がとれてきて、楽々と身体を動かせるようになってきた。


大滝さんコメント
意外なことに足もとを不安定な状態にして、楽に力を抜くとが受け身が上手にできるんです。だから、ふんばらないことが大事なんですね。身体の一部に偏った力をかけずに全身に力を分散させると、不思議なことに結果としてパワーが出る。古武術の身体の使い方は奥が深いです。

後半は「歩法(ほほう)」の練習で、古武術の身体の動かし方の基本をつかむ。我々は普段、地面を蹴(け)って歩いているけれど、ここで習う歩き方は違う。上半身はまっすぐに、腰の高さを極力一定にし、前に出ている足に後ろ足をすって引き寄せていく。
「意識はしていませんが、立っている姿勢を保つことは、相当神経を使っているんです。だから、人間は転ばないようにふんばるんですね。けれど、古武術に多いのは、『底をなくしていく感覚』。あえて不安定な状態にしていたほうが、うまく力を伝えることができ、効率的に動けるようになるんです」(中島先生)
教室全体を使って、「抜き足」「踏み足」「さぐり足」で歩く。まるで粘った床を進むような、独特の足さばきだ。
「2本のレールを歩くイメージで足を動かしてください。そうすると、背骨を軸にして、左半身と右半身がそれぞれ柱になって、交互に動かしている感覚がつかめるはずです。この感覚をつかむと、身体を楽に使えるようになります」

大滝さんコメント
左半身と右半身に軸を持つ動かし方は、テニスの一流プレーヤーも使っています。古武術とテニスはかけ離れていますが、応用できることがかなりありますね。今まで気づかなかった身体の感覚を呼び覚ましてくれるのが、この講座の面白いところです。

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大滝さんコメント
習い始めたころは、テニスの身体の動かし方とまったく違うので、何が何だかわからなかったですね。けれど最近は、「ふんばらないコツ」をつかみ始めました。「このままいっちゃえばいいんだ……」と、動きの流れに身をゆだねられるようになってきたように思います。