「では、順番に課題を朗読していきましょう」
この教室では、生徒が順番に課題を朗読していき、直すべき個所や大切に読まねばならない部分で、テンポよく先生がアドバイスしていく。今日の課題は、森鴎外の妹で小金井良精の妻、小金井喜美子の『鴎外の思ひ出』。『舞姫』のモデルになったエリスが鴎外を追って、単身で日本に来たときの顛末を描いた個所を読んでいく。
「そこの間はもう少しあけましょう。内容によって間の取り方が違ってきます。内容が改まるところでは、気持ち間を長めにして、出だしの声を張りましょう」と、先生。
朗読の目的は人に聴かせること。客観的かつ忠実に内容を伝えねばならないので、読む技術が求められる。先生は、長年ラジオドラマのプロデューサーだったプロ中のプロ。指摘されたアドバイスのとおりに直して朗読すると、内容がすっと頭に入ってくるようになった。
いよいよ小島さんが朗読する番に。今回の課題の最後の段落であり、小金井喜美子がエリス離日の感想をつづる重要な個所だ。
「……それを見た時、噂にのみ聞いて一目も見なかった、人のよいエリスの面影が私の目に浮かびました」と、最後の一文を読み上げた小島さん。すかさず先生からアドバイスが入る。
「作品が終わることを伝えるために、読む速さをもう少し落としましょう。もう一度、読んでみてください」
小島さんが同じ個所を読むと、再び、先生がアドバイス。
「一番大切なことを際立たせるためには、作品成立の背景と文脈を理解し、それに合わせて強弱をつけることを意識しましょう」
こういうやりとりを繰り返すと、芝居のような感情表現は一切していないのに、作者のエリスへの憐憫(れんぴん)の情がひしひしと伝わってくるようになっていった。読む技術のある・なしで、伝えられることが大きく違うことに気づかされる瞬間だった。
小島さんコメント
朗読するとき、必ず作品成立の背景などを調べます。今回の『鴎外の思ひ出』で言えば、この教室で以前に学んだ『舞姫』で得たイメージ、登場人物や作品には書かれなかったエピソードなどを重ね合わせて朗読しました。
最後の30分ほどは、次週から本格的に取りかかる小説家・岡本かの子の『雑煮』の出だしを読む。読み始める前に、先生が岡本かの子について解説。漫画家・岡本一平の妻で画家・岡本太郎の母。夫と愛人が同居するなど、奇妙な夫婦生活だったことや、彼女の作品の特長などを簡潔に話していく。課題の最初の一文の「維新前、江戸諸大名のご用商品であった……」という個所も、先生からの解説があることで、より作品に気持ちが入る。
「最初の一文なので力が入ってしまいますね。でも、出だしが強くなりすぎると、息が続かなくなって最後が弱くなってしまいます。日本語では意味を規定する言葉が文末にきます。この言葉を明確に読まないと、何を言っている文章かが伝わりにくい。だから、文末をしっかり読まねばならないんです」。先生のアドバイスを真剣にメモを取る小島さん。「なぜ、そう読まねばならないのか」の明快な説明があるから、回を重ねるごとに朗読の技術が上達する。

小島さんコメント
仲間の朗読を聞くと、「なるほど。そういう風に読むのか…」など、毎回、新鮮な気づきがあります。先生だけではなく仲間からも、読み方のヒントをもらったり、読み方の良さを学んだりできるのが、グループレッスンのいいところですね。
※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
小島さんコメント
必ず事前に練習してから、教室に参加しています。間をどう取るかで伝わり方がずいぶん変わってくるので、どこで間をとるか、テンポを速くするかなど、赤ペンでチェックを入れておきます。