拝復
日に日に秋の気配が色濃くなり、ローマの街路樹も色づき始めました。バカンスのシーズンもとうに過ぎ、街には日常の喧騒(けんそう)が戻ってきています。そちらはいかがお過ごしですか?
小野さんからのお便りを読みながら、雄大な北海道の自然と秋の味覚を想像しておりました。実は私、まだ北海道へ行ったことがないのです。時折ローマを訪れる日本の友人知人との話題で北海道の話が出るたびに、皆が口を揃(そろ)えて「北海道のウニに勝るものはない」と言っていたのを思い出しました。イタリアにもウニはあるのですが、どれも小ぶりで寿司のネタには到底なるものではなく、体験したことのないウニのおいしさは私のひそかな憧(あこが)れとなっております。
ローマに長年暮らしておりますと、新鮮な魚介類がとても恋しくなります。私が生まれ育った瀬戸内海は海産物の宝庫。反対にローマは肉が主流で、日常生活では魚は高級品です。どうしてもおいしい魚が食べたくなった時は思い切ってローマを出て、シチリア島のカターニアやジェノバ付近のリグーリア海岸まで出向いたりします。甘い小エビや地中海の魚介類のフライは格別のおいしさがあります。
今、私は秋に東京で開かれる個展の準備で忙しく、アトリエと自宅を往復する毎日です。
創作活動を兼ねて、ローマの美しい風景が見られる場所をいつも探して歩いているのですが、秋の木漏れ日が古代ローマの遺跡に降り注ぐこの季節、雄大な自然の風景とはまた別の美しさを堪能できます。二千年前の世界と現代が同居しているローマの街は、世界にも類のない独特の魅力を秘めている街です。夕暮れどきのフォロ・ロマーノの光景は、時空を越えたロマンを感じさせてくれます。
スペイン階段があるトリニタ・ディ・モンティの丘のさらに上にある「ホテル・エデン」のテラスは、私のとっておきの絶景スポット。次回ローマをご訪問の際には、ぜひここからの旧市街の景色を楽しんで欲しいと思います。
海、山の味覚がそろいはじめ、市場にはイタリアの秋の味覚の王様・ポルチーニ茸(だけ)が登場しました。生の茸を軽くグリルして、ステーキと一緒にいただくと、大地の恵みの豊かさを堪能できます。まだ見ぬ北海道の大地の恵みを想像しながら、今夜はポルチーニ茸を肴(さかな)に赤ワインを楽しみたいと思います。
この季節は、おいしいワインとチーズを肴に夜のひとときを過ごすのも楽しみとなっています。イタリアで暮らす日本人の間では、「水牛のモッツァレッラ・チーズをわさびしょうゆで食べると大トロの味がする」というのが、今ちょっとした話題になっているんですよ。モッツァレッラや、私の大好物であるパルミジャーノ・チーズも日本で作られているのでしょうか? パスタにかけてもワインのつまみにしても絶品のパルミジャーノ・チーズはイタリア料理には欠かせないもの。逆に北海道にはどんなチーズがあるのか私も興味津々です。
今年のチーズの出来など、チーズ工房のおいしいお便り、楽しみにお待ちしております。
敬具
ローマにて 平田ゆたか
三友盛行さま

赤ワインと合わせると最高なのがイタリアの肉料理の代表「タリアータ」。伝統的に肉料理が主流のローマでは、上質の肉が安く手に入ります。
日本のマツタケに匹敵するイタリアの秋の味覚の王様「ポルチーニ茸」。このままグリルしても良し、パスタとの相性も最高です。

平田ゆたか
1944年、香川県生まれ。1974年渡伊、国立ローマ・アカデミア入学。1982年、前ローマ法王ヨハネ・パウロ二世に謁見、作品献上。同年ヴァチカン近代美術館に作品を所蔵される。2006年11月、西武池袋アートフォーラムにて個展開催予定。ローマ在住。
小野高道
「どらく」編集長。1958年、東京生まれ。1984年、朝日新聞社入社、東京本社社会部、「be」副編集長などをへて現職。

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