拝復
ローマの上空には、ミケランジェロが描いたフレスコ画そのままの、透明な水色の空が広がっています。写真やテレビで見知った北海道の印象は、どこまでも続く大地と花が咲き乱れる丘のコントラストがとても美しいものでした。三友さんのお便りを拝見して、牛たちとともに過ごす中標津の自然風景はどんなだろう、と想像をふくらませています。
イタリアと日本は地形的にとてもよく似ています。南北に長く、海に囲まれていて、背骨の部分には高い山脈が連なっているところなどはそっくりですね。酪農が盛んなところもたくさんあり、アルプス連山には数百年前から続く「羊飼いの道」が今でも残っています。スイスやオーストリア、フランスへと続く山道では、牛や羊の群れがのんびりと草を食む光景がよく見られます。
私も妻子を連れて、機会あるごとにそうしたイタリアの自然風景を訪れていますが、オーストリア国境近くのドロミテ・アルプスの小さな村への旅は、今でも鮮明に記憶に残っています。イタリアン・チロルと呼ばれるこのエリアは、おとぎの国のような印象があります。村の小さな教会の背後には、標高3000メートルを越える山々が迫り、厳しさの中に孤高の美しさを湛えています。山小屋風の可愛い家々の窓は残らず花々で彩られ、隅々まで手入れが行き届いた村の美しさに感動しました。
三友さんの牧場での生活を知り、このドロミテ・アルプスの雄姿を思い出しながら、ふと「自然と共存する」ということはどういうことかを考えました。私は今まで、さまざまなイタリアの風景を描いて来ましたが、どこへ行っても感心するのは、人間も街も周囲の自然と一体化している、ということです。同じ街、同じ場所でも同じ風景は一度も見たことがない。それは、周囲の自然が織りなす光や色が日々異なるからにほかなりません。
ナポリから小1時間、ソレント半島のポジターノという街も、その自然と街の景観の素晴らしさで知られています。海からしか上陸できない険しい断崖(だんがい)に囲まれた小さな街には、周囲の緑や崖(がけ)の美しさを損なわないよう、絶壁に沿って建物が立てられています。手つかずの海は正真正銘のコバルト・ブルーで、私たち人間は、「自然の中にちょこっとお邪魔させてもらいます」と、実に謙虚な気持ちにさせられます。
日本の自然にもこうした配慮が行き届いた場所があって欲しい、と切に願う今日この頃、三友さんの「100年の夢」のお話をうかがい、非常に頼もしく、またうれしく思いました。奥さま手作りの「カチョカバロ」も、ぜひとも試してみたいですね!
本格的な寒さが到来するまで、この美しい秋の空を存分に楽しみましょう。
敬具
平田ゆたか
三友牧場 三友盛行さま
追伸
沖縄で八重山民謡を歌い継がれている大工哲弘(だいく・てつひろ)さんから、深い青が印象的な海の絵はがきが届きました。沖縄の海は今、どんな輝きを見せているのでしょう。お便りが楽しみです。

イタリアとオーストリアの国境にあるドロミテ・アルプスの村。花々で彩られた小さな村の教会の背後には、壮大なアルプスの山々がそびえている。自然の厳しさと美しさを心底感じられる光景です。

三友 盛行(みとも・もりゆき)
1945年、東京生まれ。1968年、妻の由美子さんと北海道標津郡中標津町に開拓入植し、三友牧場を開く。自家牧草を飼料の中心とした少頭数飼育での「マイペース酪農」を提唱・実践。97年、チーズ工房設立。著書に「マイペース酪農 風土に生かされた適正規模の実現」(農文協、2000)など。
三友牧場(チーズ工房)電話:0153-73-3986
平田ゆたか
1944年、香川県生まれ。1974年渡伊、国立ローマ・アカデミア入学。1982年、前ローマ法王ヨハネ・パウロ二世に謁見、作品献上。同年ヴァチカン近代美術館に作品を所蔵される。2006年11月、西武池袋アートフォーラムにて個展開催予定。ローマ在住。

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