拝啓
ローマは日に日に冬の足音が近づいてきています。街角には焼き栗を売る店が出始め、晩秋の街景色を演出しています。
四季とりどりの自然の美しさが感じられるイタリアでは、晩秋から冬にかけて、いっそうロマンチックな雰囲気が漂い始めます。「ロマンチック」とは「ローマン・チック=ローマ的」という言葉が語源であるということを御存知ですか?古くから世界中の人々を魅了してきたローマのまちには、言葉では表現できない魔力のようなものが潜んでいると思えてなりません。
瀬戸内海で生まれ育った私が、単身ローマへ渡ってから、かれこれ30数年がたちます。画学生として初めてローマの地を踏んだとき、私が最も感動したのが「イタリアの太陽の光」でした。湿度が低く、アフリカ大陸に近いイタリアは、常に強烈な太陽の光に照らされています。海の青も木々の緑も花々の色も、なにもかもが輝いていて、私はその色の素晴らしさ、光の美しさに心を奪われました。
画家として独り立ちしてからは、国内外の方々から「イタリアの光を描く画家」という定評をいただいてきましたが、私が常に魅了され、かつ表現したいと願っているものが、まさにその「イタリアの太陽の光」なのです。
古代ローマの街並みが今も変わらずに佇(たたず)んでいるフォロ・ロマーノ、コロッセオ。夏の野外オペラで知られるカラカラ浴場跡、古代の馬車競技場があったチルコ・マッシモとパラティーノの丘。古代世界の遺跡の数々が、日々刻々と変わる強烈な太陽の光に輝き、深い影を落とす様は何度見ても見飽きません。心が震えるような感動を覚えたあの光景を、カンバスに表現し、多くのみなさんとその美しさを分かち合いたい。その気持ちは、今も変わらず私の創作の原動力となっています。
京都には微妙な陰影を生み出す光がありますね。強い光を見慣れた目には、この京都の光と影というものがとても繊細で風情があり、その独特な色合いの美しさを見ることは私の最大の楽しみとなっています。古の画家達が描いてきた天使の絵にある光の輪が、本当に目に見えるかのように強烈なイタリアの太陽の光と、川面に水墨画のような山の影を落とす穏やかで繊細な日本の太陽の光。両極にある二つの光は、どちらも美しさの点では比べようがなく、画家としての私の感性を常に刺激し続けてくれます。美しい光と影が織りなす光景が壊されることなく次の世代へ受け継がれるよう、願ってやみません。
京都はそろそろ冬支度が始まるころでしょうか。雪景色の風景と温かな豆腐料理を思い浮かべながら、ローマの真っ赤な夕陽を眺めています。
敬具
2006年11月14日
ローマにて 平田ゆたか
福原左和子様

夕暮れが迫るフォロ・ロマーノ。背後にコロッセオを控えた、古代帝国の面影が今なお息づくローマ最大の名所には、いつもたくさんの観光客が訪れています。かつてはまっ白な大理石で覆われていたこの荘厳な建物の数々を眺めていると、時が止まったような不思議な感覚に襲われます。

平田ゆたか
1944年、香川県生まれ。1974年渡伊、国立ローマ・アカデミア入学。1982年、前ローマ法王ヨハネ・パウロ二世に謁見、作品献上。同年ヴァチカン近代美術館に作品を所蔵される。2006年11月22〜27日 西武池袋アートフォーラムにて個展開催。ローマ在住。
福原左和子
筝曲家。アメリカ、香港、京都では毎年リサイタルを開催。古典、現代音楽だけでなく、クラシックやインド音楽とのセッションも多い。CD、映画音楽、DVD多数収録。京都在住。最新のソロアルバムは「NAGAREGUMO」。2005年京都府文化賞奨励賞受賞。

「航空書簡−ことばが紡(つむ)ぐ旅」は、道東にやってきた「どらく」編集長から筆を起こし、まずはローマ在住の平田ゆたかさんにあてて手紙を送りました。これから冬にかけて、イタリア、スペイン、パリの海外3地域と、北海道東や沖縄、宮崎、京都、飛騨高山など国内6都市で生き生きとくらす「どらく」なスペシャリストたちが、リレー方式で空を駆け巡る書簡をやりとりしていきます。書きしたためることばが紡いでいく遥かなる旅をお楽しみください。

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