拝復
お便りありがとうございました。今年は晴れた日が多く、朝晩冷え込んだので、紅葉が奇麗。清水寺や高台寺の夜間拝観も行われています。光と影が演出する京の紅葉、まさに今が見ごろです。
公演などで、旅から旅への生活をしていることがわかるとよく、なぜ東京に住まないのかと聞かれます。演奏活動を続ける上では、関東圏在住のほうがいろいろな意味で利点が多いですから、もっともな疑問だと思います。で、たいがい、よほど京都が好きなのねと、いわば勝手に納得されます。答えは少し違うんですけれども……。
京都は不思議なまちです。1000年以上もの間、華やかな歴史に彩られてきた旧都として、年間5千万人近い観光客が京都市を訪れます。一方で、名だたる最先端企業の本社がいくつもあることでも知られています。寺社仏閣や町家など古いものに囲まれて暮らしながら、新し物好きと言われる京都人。エスカレーターの左右、どちらを急ぐ人用に空けるかは国や地域によって異なるそうですが、京都では決まりはありません。時々で右にもなるし、左にもなります。京都人の柔軟性、フレキシブルな気質を象徴するエピソードです。
亡くなられた沢井忠夫先生が、野坂昭如氏の小説「火垂るの墓」にインスパイアされて作られた曲、「火垂る」。絃の数も多く、大きくて低い音の出る箏(そう)、十七絃で奏でるのですが、かなりの難曲です。難解な曲は嫌いではなく、むしろ好きなのですが、重厚で品格高いこの曲は特別。1年かけて習得しました。毎日ひたすら練習を重ね、リサイタルで演奏するのは約10分。でも苦ではありません。演奏家は練習が仕事。そんな曲にめぐり合えた幸せをひしひしと感じています。それが演奏家の喜びですね。
何事もバランスが大事だと思います。練習という影の部分があるからこそ、リサイタルやCDという光の部分が際立ちます。京都も同じ。派手な歴史の表舞台という光の部分の裏には、次々変わる為政者に暮らしを踏みにじられてきた庶民の悲哀という影の部分があります。表裏一体、温故知新。しなやかに強く、美しい。あらゆる面でバランスが取れているから居心地が良い。盲目的に京都を愛しているわけではないけれども、京都を離れる気にもなれない、これが答えです。
新しいと古い、ハレとケ、光と影……キーワードは二面性。それが京都の街と人々の魅力です。住めば都、住むなら京都。もうすぐ京都名物・北山時雨のシーズンがやってきます。
敬具
京都にて 福原左和子
平田ゆたか様
追伸
スペイン在住の渡部純子さんから、アルハンブラ宮殿の絵はがきをいただきました。イスラムとヨーロッパが交錯したこの地もまた、光と影の二面性がまちに深みを与えていると感じます。

依頼されて幼稚園に演奏に出向くこともあります。子どもたちの耳は素直です。童謡など、子供向けの曲ばかりを演奏するわけではないのですが、真剣に聴いてくれます。そのあとの質疑応答も楽しいですよ。幼いころから邦楽にも親しいんでもらえたらと思います。
イメージ用に撮影した1枚です。実際には髪の毛も結わえずに、こんな風にリラックスして、箏に向かうことはないですね。一日中出掛けていることも多いので、練習できる日は丸一日演奏を続けることもあります。けんしょう炎は職業病といえるかもしれません。


平田ゆたか
1944年、香川県生まれ。1974年渡伊、国立ローマ・アカデミア入学。1982年、前ローマ法王ヨハネ・パウロ二世に謁見、作品献上。同年ヴァチカン近代美術館に作品を所蔵される。2006年11月22〜27日 西武池袋アートフォーラムにて個展開催。ローマ在住。
福原左和子
筝曲家。アメリカ、香港、京都では毎年リサイタルを開催。古典、現代音楽だけでなく、クラシックやインド音楽とのセッションも多い。CD、映画音楽、DVD多数収録。京都在住。最新のソロアルバムは「NAGAREGUMO」。2005年京都府文化賞奨励賞受賞。

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