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ことばが紡ぐ旅

航空書簡 from スペイン to 白川郷 人類の叡智を刻む、建築への誘い

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拝啓

白川郷は冬支度がはじまったころでしょうか。バルセロナは過ごしやすい季節を迎えています。

今年、公演のため日本に帰国した際、家族で飛騨と白川郷を訪れました。伝統の木造建築を目にしたときに、思い出したのはスペインで主流の石造りの建物です。

ガウディの聖家族教会を神田さんはご存知でしょうか。完成まであと200年、いや、もしかしたら完成しないのでは、というほどの大作を「造ってみよう」と考えるスペイン人の感覚に驚かされます。数百年かけて完成させ、何世紀も保存し後の世に残していく。彼らの歴史を重んじる心は、建築への姿勢にそのまま現れています。

地震がないためもありますが、この国では100年という使用単位で建造するのが当然で、新築よりも優れた中古物件のほうが高値をよぶほどです。100年やそこらでは古びず、建てかえの必要があまりないため、中心街の多くは古い家。私が経営するカフェ&バーのビルも1800年代の建築だったと思います。

改装工事をすると笑ってしまうほど時間がかかることもありますが、長い長い建物の人生からしたらほんの一瞬。「よいものをていねいに造り大切に使おう」、そんな姿勢がスペインにはあります。16世紀ごろの基盤がしっかりした家を購入し、何年もかけて自分たちで修復しながら住む人たちもいます。こうしてまた数世紀にわたる新たな命を建物に注ぐのですね。

誰にも忘れがたい思い出の場所があるのではないでしょうか。私にとっては、初めてスペインでプロとして舞台に立ったセビリアのタブラオです。地元の人しか知らないようなタブラオでしたが、どんな大きな会場よりも忘れられない場所です。楽屋で現地のダンサーと交じって化粧した緊張感、彼らのしぐさや会話は今も鮮明に記憶に残っています。もうあの場で踊ることはないかもしれませんが、それでも思い出の場所が壊されたり、建て替えられたたりしたらどれほど寂しいでしょう。

日本に帰国すると、あまりにも時が速く流れていると感じます。スーパーだったところが巨大なショッピングモールに姿を変えたり、見慣れた店がなくなったり。誰かの思い出だった場所も、使い捨てのように消えていくように思えることがあります。

合掌造りを目にしたとき、日本の木の家もこうして数百年の歴史を刻んでいけるのだと実感しました。物があふれる世の中だからこそ、私も本当によいものを大切に使い続けることを考えて生きていきたい。ささやかながらもそんな努力を続けたいと思っています。

敬具

2006年11月21日

スペインにて 渡部純子

神田吉治さま

ガウディの聖家族教会。完成はあと数十年ほどと言われていましたが、近ごろは、古くに作られた部分の修復工事を行う必要もあり、また完成時期が延びるとも言われています。

私が経営するカフェ&バー「ラ・ブレリア」。石造りのビルは築100年を超えるとはとても思えないほど状態はいいです。周辺のビルも、すべて同じくらいの築年数だそうです。

白川郷からの手紙
プロフィール

渡部純子

栃木県生まれ、バルセロナ在住。セビリアで修行を積んだのち、バルセロナで本格的にフラメンコダンサーとしての活動を開始。1998年、フラメンコスタジオ「タラントス」をバルセロナに開校、2004年CAFE & BAR「La Buleria(ラ・ブレリア)」をオープン。詳細は
http://www.fmt-net.co.jp/junko/

神田吉治

1941年、白川郷に文政年間より続く神田家の次男として生まれる。東京生活を経て、32歳のとにきUターン。合掌造りの生家で前当主とともに民宿を営む。4世代で居住。5代目当主として、2003年より神田家を一般の人々に公開、現在も同家に
http://kandake040722.fc2web.com/frame.html

「航空書簡−ことばが紡(つむ)ぐ旅」は、道東にやってきた「どらく」編集長から筆を起こし、まずはローマ在住の平田ゆたかさんにあてて手紙を送りました。これから冬にかけて、イタリア、スペイン、パリの海外3地域と、北海道東や沖縄、宮崎、京都、飛騨高山など国内6都市で生き生きとくらす「どらく」なスペシャリストたちが、リレー方式で空を駆け巡る書簡をやりとりしていきます。書きしたためることばが紡いでいく遥かなる旅をお楽しみください。

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