拝啓
お便りありがとうございました。白川郷の銀世界に思いをはせながら、雪こそ降らないものの少しずつ秋景色に衣替えしていくバルセロナの風景を眺めています。
お手紙を拝見しながら無性に恋しくなったのは、飛騨の味わい。スペインの料理は日本人の口にあいますし、日本食が恋しくなることはあまりないのですが、飛騨牛の味は忘れ難いものがあります。
12月の終わりごろからでしょうか、バルセロナに住む日本人どうしで「今年はもう食べた?」と言い合う味があります。こちらの長ねぎを炭火で真っ黒になるまで焼き、中の真っ白なところをサルサ・ロメスコというアーモンドやトマト風味の濃厚なソースに付けて食べる「カルソッツ」。一度口にしたら忘れられなくなるおいしさです。旬の時期になると、バルセロナのいたるところに、日本の「冷やし中華あります」の看板のように、「カルソッツあります」という看板が出現するんですよ。12月から3月にしか口にできないので、みな季節の到来を待ちわびています。
旬の季節を迎えると、カルソッツの長ねぎはスーパーでも購入できます。前菜でカルソッツを焼いて次はメーンのソーセージや肉を焼く「カルソパーラ」というパーティは、家族や友人どうしの冬の楽しみ。焼くとおいしいという飛騨ねぎと食べ比べてみたいですね。
カルソッツに限らず、スペインには各地においしい料理がたくさんあります。私のカフェ&バーでも、もちろんおいしい土地のものをご用意しています。ワインはスペインでも有名なリオッハ地方のボデガから直接仕入れています。バルセロナにおいでの際にはぜひお立ち寄りください。
スペインでの生活そのものも、味わいといえるかもしれません。「自由」という表現が正しいかわかりませんが、「明日は明日の風が吹く」的な生活です。日本でもし100万円持っていたら、いざというときに備えて貯めておこうとするでしょう。でも、スペインでは「さあ、今週末は家族でどこに行こう」と考えるんですね。今月払う家賃がなくても飲みに行ってしまう、それで通ってしまう土地です。お金っていざ必要な時には、不思議とどうにかなったりするんですよね。先のことを考えて保守的に生きるより今を楽しむ、私もそんな暮らしになりました。
どちらの考え方が良いのかは現時点ではわかりませんが、今を味わいながら楽しく生きています。
敬具
2006年11月28日
スペインにて 渡部純子
神田吉治さま

大胆に表面を真っ黒になるまでに焦がし、真ん中の白い部分だけを食べるカルソッツ。もくもくと煙を出すので郊外のほうが簡単にカルソッツを扱っているレストランが見つかりますよ。
「ラ・ブレリア」では火を使った料理は出していないのですが、おいしい生ハムやサンドイッチなどつまみをお出しします。気軽に立ち寄ってください。

渡部純子
栃木県生まれ、バルセロナ在住。セビリアで修行を積んだのち、バルセロナで本格的にフラメンコダンサーとしての活動を開始。1998年、フラメンコスタジオ「タラントス」をバルセロナに開校、2004年CAFE & BAR「La Buleria(ラ・ブレリア)」をオープン。詳細は
http://www.fmt-net.co.jp/junko/
神田吉治
1941年、白川郷に文政年間より続く神田家の次男として生まれる。東京生活を経て、32歳のとにきUターン。合掌造りの生家で前当主とともに民宿を営む。4世代で居住。5代目当主として、2003年より神田家を一般の人々に公開、現在も同家に
http://kandake040722.fc2web.com/frame.html

「航空書簡−ことばが紡(つむ)ぐ旅」は、道東にやってきた「どらく」編集長から筆を起こし、まずはローマ在住の平田ゆたかさんにあてて手紙を送りました。これから冬にかけて、イタリア、スペイン、パリの海外3地域と、北海道東や沖縄、宮崎、京都、飛騨高山など国内6都市で生き生きとくらす「どらく」なスペシャリストたちが、リレー方式で空を駆け巡る書簡をやりとりしていきます。書きしたためることばが紡いでいく遥かなる旅をお楽しみください。

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