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ことばが紡ぐ旅

航空書簡 from 湖北 to アメリカ 歴史との対峙 小和田哲夫さんがつづる戦国の近江

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拝啓

春まだ浅い静岡から便りをしたためております。

きょう、ニューヨークにお住まいの兵藤ゆきさんから楽しいお便りが届きました。

アメリカは今年、入植400周年とのこと。400年前の日本はちょうど、江戸時代が始まった頃ですね。私が専門としているのは少し時代が遡(さかのぼ)った戦国時代。今日は、その主要な舞台となった近江地方に思いを馳(は)せたいと筆をとりました。

「近江を制するものは天下を制す」という言葉があります。それまでの戦国大名と織田信長の違いはいくつもありますが、経済を味方につけたこともそのひとつ。近江があの時代の大きな舞台になったのは、東海道、中山道、北国街道の交わるこの地の商品流通経済が果たした役割が大きかったと思うのです。のちに近江商人を輩出した近江八幡は、豊臣秀次が作り上げた城下町の原形や江戸時代の豪商たちの屋敷も残る実に風情のある街です。

近江にはまた、古戦場や城址も数多くあります。

姉川で行われた浅井・朝倉軍と織田・徳川軍による合戦の跡地は、川の流れも当時のままですので、そこに立てば戦の情景を重ねることができます。「姉川が血に染まった」と言われる合戦では、2500もの戦死者を出し、現在でも、「血原」や「血川橋」といった地名が残っています。もちろん、関ヶ原の合戦場も見ておきたいところです。

私が歴史学、なかでも戦国時代を専門とした背景には、「城好き」だった少年時代があります。小学校から育った東京の家からは江戸城が見え、郷里の静岡からは駿府城が見える。テレビでも、戦国時代を舞台にした「紅孔雀」や「笛吹童子」が人気を博していました。お城好き、戦国好き、武将好きが高じて、今に至っているといいましょうか。

近江にある城で復元され、天守閣があるのは長浜城だけですが、城好きにとっては現存するかどうかは問題ではありません。安土城は復元されていませんが、古い形はそのまま残り石垣などは見事です。城跡に佇(たたず)み、「ここから信長は琵琶湖を眺めたんだ」と、当時に思いを馳せることができるすばらしいところです。

戦国時代は、個性的な登場人物が多いことも魅力ですが、現代と相通じる時代だったとも思います。戦前まで残っていた身分秩序が戦後リセットされ、実力主義の時代になった。そんな時代に生きている今の日本人は、下克上の時代に親近感を強く持つのでしょうね。

伊藤さんは相変わらず旅を続けておられるのでしょうか。次の機会には、マレー鉄道のお話などゆっくりうかがいたいものです。

敬具

2006年2月9日

静岡にて 小和田哲男

伊藤伸平様

姉川の源流となる伊吹山は標高1377メートル。「日本百名山」のひとつで、ヤマトタケルノミコトの伝説にも登場します。

琵琶湖大橋の東のたもとから湖を望みました。日本初の本格的な天守といわれている安土城から眺めた琵琶湖は、どれほどの美しさだったでしょう。

プロフィール

兵藤ゆき

名古屋市出身。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りにテレビ番組に登場。エッセー、脚本、作詞、歌手、小説などジャンルを超えて幅広く活躍。1996年に長男誕生後、ニューヨークに。主な著書に「ぶんちんタマすだれ」「ゆき姐のニューヨーク裏うら散歩」「でこぼこなクラス写真〜子どもたちは黙っちゃいない〜」(いずれもワニブックス)、「ニューヨーク熱血井戸端会議」(集英社be文庫)、「頑張りのつぼ」(角川書店)、「こどもを守る101の方法(翻訳本)」(ビジネス社) など。
アサヒ・コムで子育てコラム連載中
http://www.asahi.com/edu/column/ikuji/

小和田哲男

1944年、静岡県出身。静岡大学教育学部教授・文学博士。戦国時代が専門。NHK「その時歴史が動いた」、NHK教育「歴史で見る日本」などの常連出演者。「関ヶ原の戦い」「戦国合戦事典」「戦国武将」など著書多数、雑誌や新聞にも多数執筆。NHKの大河ドラマ「秀吉」「功名が辻」の時代考証も担当。長浜城博物館・運営委員。

アメリカの歴史に触れる・感じる旅
兵藤ゆきさんがつづる東海岸生活(1頁へ)アメリカ入植400年をたどる東海岸探訪(3頁へ)
日本の歴史に触れる・感じる旅
小和田哲夫さんがつづる戦国の近江湖北に訪ねる、戦国武将の夢のあと(4頁へ)
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