さて最後に選(せん)、すなわち選びについてお話ししましょう。
自分ではすごくうまい冗談を言ったつもりなのに、「それがどうしました?」「何のこと?」という顔をされたのでは、空振りの気分。以前のコラムの繰り返しになりますが、【風流ことばあそび塾】で評価されるのは、昔から俳諧精神という言葉でいわれる洒落の感覚です。万人受けは必ずしも必要ありません。一瞬に理解できて、覚えやすく、快い笑いを誘う、時と場所を心得た一言が洒落ていて結構、とされます。
ただ、ある人に「それがどうしました?」と言われても、ほかの人は膝を打つかもしれません。そこで、選びの偏りを避けるため、【風流ことばあそび塾】は選者(せんじゃ)をふたり立てる、「二者選(にしゃせん)」で行ないます。
ことば遊びの会で過去に高点を取り、よく知られている作品のことを「通り句」といいます。すでに通り句となっているものと似たような作品が投稿された場合、どんなにすぐれていても、基本的には選ばれにくいこととなります。ただ、選者がすべての通り句を知っていることはあり得ないので、ぜったい選ばれない、とはいえないのですが。
また、まったく同じ作品が複数の人から投稿されることがあります。これを「付き句」といいます。多くの人が考えるくらいですから、わかりやすく良い作品であることが多いのですが、これも選ばれません。
「病句(やまいく)」は前にお話ししたように、ルール違反の作品のこと。病句は選で最初に落とされてしまいます。
【風流ことばあそび塾】では、投稿されたすべての句から、15〜16句を秀句として選びます。ランクのつけ方は、上から「天(てん)・地(ち)・人(じん)・五客(ごきゃく)・七秀(しちしゅう)」という古風なやり方。「天」は最高位。「天・地・人」を「三彩(さんさい)」と呼ぶこともあります。三彩に続く五客、七秀のほかに、「雲」をとることもあります。雲は「雲隠し」の略。源氏物語絵巻などに、絵の上下を雲や霞で隠す大和絵の技法がありますが、ことば遊びの世界で雲に隠されているのは、お色気、ユーモア。ただしお色気も度が過ぎると、「生破礼(なまばれ)」といって洒落の精神に反しますから、要注意です。
【風流ことばあそび塾】で選者をつとめるのは、篝火舎心亭(かがりやしんてい)、寿々乃舎於火女(すずのやおかめ)ほか、「眺牛會(ちょぎゅうかい)」の御連中です。
眺牛會というのは、大正のはじめ、新派の巨頭、喜多村緑郎(1955年に人間国宝)の主催でスタートしました。句会の会席となるその住まいが向島「牛の御前(牛嶋神社)」をのぞむ、対岸の橋場にあったところから、この名があります。
江戸時代以来、梨園(歌舞伎界)の大看板のほとんどが俳名、狂号を持っていたように、俳諧(今の連句、俳句、川柳など)や雑俳は、役者、狂言作者、その他文化人のたしなみとして大いにもてはやされ、楽しまれてきました。眺牛會はその流れを汲んでいるので、今日でも江戸の風趣に遊び、伝統的な雑俳種目を守る唯一の吟社になっています。
キゝ
この【風流ことばあそび塾】では、選者は「キゝ(きき)」という形で評を行なう。選者が選んだ句について「こう読みとりましたよ。ここがいいですね、面白いですね」という講評を、短句(七七)や長句(五七五)の形で詠んでつける。ここには俳諧(連句)の稽古吟という性格が残っている。 例を挙げてみよう。「飲み物に関する一切」というお題の洒落附で
キゝ 親子二本という馴染み客 (キゝを先に書く)
● 徳利そのまま
「徳利そのまま」という投稿者の作品に対して、選者は「親子二本という馴染み客」と、七七でキゝをつけた。
いうまでもなく元句は、「そっくりそのまま」。選者は、そっくりなのは親子だからだろう、と読んでいるが、むろんその奥には落語「御神酒徳利(おみきどっくり)」の一対の揃(そろ)いを下敷きにしている。その親子が徳利二本を頼んだ。あるいは「馴染み客」なら、頼まなくても出てくるのかもしれない。いずれにしても、路地にある赤ちょうちんの店内。父の仕事を息子が継いだ職人か。ふたり揃って縄のれんをくぐり、いつもの席に座った…。選者は、「徳利そのまま」という作品から、顔つきも、ちょっとしたしぐさも、飲みっぷりも、まったくよく似た親子だと、なつかしく温かい情景を描き出したわけだ。
このキゝがない状態の作品、つまり短句や長句の形で詠んでいない作品とキゝがついたものとを読み比べてみると、キゝ効果がわかる。場合によってはこのキゝがつくことで作者が意図していなかった世界がひらかれ、びっくりするような高点句となることもある。これを「キゝもらい」という。
いずれにしても、キゝ作句、元句、それぞれの世界が互いに響きあい、映りあうところを楽しみたい。
【風流ことばあそび塾】では、「天・地・人」三彩にキゝが付く。
※文中の作例は、「眺牛會」「つばな連」「新造連」連中のみなさんの作品です。
(更新日:2006年08月09日)
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