篝火舎心亭宗匠のうんちく話。今回は広告のことばについて、お話しいただきました。
広告のコピーは、短い文章が大きな力を持っているという点で、俳句や川柳、詩歌などと同じ、といっていいでしょうね。
お店の商売繁盛、企業の浮き沈みにも関わってきますし、だからたいへん高価な投資を伴います。たった一行のコピーに何百万円も支払われることもある。そんなことも手伝っているのでしょうか。ひと昔前までは「コピー」といえば複写機のことでしたが、いまや広告文を指すことばとして、一般の人たちの間でも通用しているようです。
大正時代の有名な広告コピー、「初恋の味 カルピス」。これ、最初は違ったんですね。当時の有名な女流歌人、与謝野晶子が作った歌二首が発売キャンペーンのコピーでした。
◇カルピスは友をつくりぬ蓬莱(ほうらい)の 薬というもこれにしかじな
◇カルピスは奇(く)しき力を人におく 新しき世の健康のため
どうでしょう。いささか古風ではないでしょうか。カルピスが登場したのは大正9年といいますから1920年。今から86年前であっても、やはりクラシックすぎたようです。与謝野晶子作の後には、こんな広告コピーもありました。
◇乙女の肌 真珠のうるみ
天花(てんか)の芳香(ほうこう) 仙薬(せんやく)の霊効(れいこう)
歌えよ詩人! このカルピス
そして、いくつかの変遷の後、あの名コピーが登場します。
◇初恋の味 カルピス
簡潔なフレーズ、そしてそのなかにある深い含蓄。
甘い初恋のイメージと、甘酸っぱく、健康的でさわやかな商品特性をもつカルピスが、余情豊かに結びついている。読んだ瞬間にほのぼのとしてきませんか。思わずほほえみが浮かんできます。だれにでもすぐにわかって、印象に残る、おぼえやすい。名コピーの条件をすべてクリアしています。
制作者はカルピスをじっと見つめ、その商品特性をどのように伝えればよいか。それにはおそらく、「何をいうか」よりも「何をいわないか」を考えたんでしょう。それは、「洗い上げ」ていくプロセスといっていい。短文芸の「省略の美学」がそこにあります。
この「初恋の味」は、「三段謎」と考えられますね。「○○とかけて○○と解く、その心は○○」という謎をつくることば遊びです。
◇カルピスとかけて、初恋の味と解く
その心は甘酸っぱい
というわけで、心の部分を隠してある(想像させる)というところが値打ちです。
「三段謎」だけでなく、広告コピーには、「洒落附」、「地口附」など、いろんなことば遊びが使われていますね。

たとえば、前にも出た話題ですが、もう40年以上前になるかな、「あたりまえだのクラッカー」というキャッチフレーズが流行ったことがあります。「あたりまえ」から、前田製菓の「まえだ」に続けて、「前田のクラッカー」と落とす。これは、「無駄口」ということば遊びです。「無駄口」は、みなさんのなかにも上手な人がいるのではありませんか。「驚き、桃の木、山椒の木」とか「おそれ入谷の鬼子母神」とか「あたりきしゃりきくるまひき」とか。すぐに口をついて出てくる人、いますね。
「洒落附」は、たとえば「やまだかつてない」というキャッチフレーズ。これも流行りましたね。もちろん元句は「いまだかつてない」。ドリンクの広告でした。このときのコマーシャルに起用されているタレントが山田邦子さんだったから、非常におぼえやすかったんでしょう。テレビ番組までできた記憶があります。
「地口附」も、広告コピーやネーミングでよく見かけます。
たとえば、「チチンブイブイ アリナミンV」(ちちんぷいぷい)とアーノルドシュワルツネッガーが出てきたコマーシャルや、すりおろしりんごというジュースの「りんごすったー」(リンゴ・スター)。家電の名前では、冷蔵庫の「かわりばん庫」(代わり番こ)、洗濯機の「新乾洗」(新幹線)、オーブンの「ヘルシオ」はヘルシーを思わせる音と「減る塩」…。
長時間履いても足がムレないのが特長という靴下は、「フレッシュライフ」という商品名を「通勤快足」(通勤快速)に変えたら大ヒットしたといいます。
広告コピーのなかのことば遊びを探して、それがなぜ、どのように生まれたかを考えるのも、なかなか面白いものです。
同音異義のことばから連想を広げたり、ひとつのフレーズに二重の意味を持たせたり、ことば遊びは、作ることにも、わかることにも脳を使います。今流行の脳の活性化、いい「脳トレ」になりますね。
(更新日:2006年11月16日)
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