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風流ことばあそび塾 篝火舎心亭監修

ことばのお洒落 お洒落なことば Vol.04 拍手と柏手

監修:篝火舎心亭 文:寿々乃舎於火女

篝火舎心亭宗匠のうんちく話、今回のテーマは「拍手と柏手」です。

明治30年ごろの劇評に、「最近、いい役者が引っ込む時にお客が手を叩(たた)くようになった。国際的にも一人前になってきた」と書いてある。拍手することが国際的だっていうんですね。

つまり、当時、拍手しないと国際的ではない、文明開化ではないわけで、江戸時代はむやみに手を叩かなかったことがわかります。亡くなった歌舞伎役者の七世尾上梅幸が書いた本に「拍手は幕が下りてから」という、そのものずばりのタイトルがありまして、拍手をいやがった役者もいたようです。現に、2、30年前までの歌舞伎では、拍手よりも「かけ声」のほうが主流だったんじゃないでしょうか。

「能」ではいまでも、演者がすべて退場した後で、四拍子とよばれる太鼓、大鼓、小鼓、笛が、橋がかり、つまり舞台から退場する通路に入ってから、やっと儀礼的な拍手が起きます。この拍手も、ひと昔前までは、まったくなかったように思うのです。

歌舞伎では「じわ」といいますが、客席に、感嘆、感動がじわじわと広がっていくのが役者にはわかるんですね。それで「じわ」と呼ばれている。この「じわ」が来るのは、役者冥利(みょうり)につきるわけです。

最近は歌舞伎でも、人が出入りするたびに手を叩くでしょう。じゃまだと思うけれど、しようがないですね。

たとえば大薩摩節の演奏のなかで、三味線方の腕の冴(さ)えを聞かせる「からくさ」という演奏テクニックがあるんですが、ここで撥(ばち)さばきの見事さに客席から拍手が起きます。最近、その拍手の始まるのがだんだん早くなり、肝心の聞きどころは拍手のために何も聞こえない。せっかく喝采(かっさい)をおくるのなら、山場を待って待って、もう「ここまで」という、一段らくに拍手すべきでしょう。

日本人にとって「手を打つ」ということの意味はいくつかあります。

一つは、デモンストレーションというか、人を呼んだり、現にここにいる、ということを知らせたりするときに手を叩きますね。

もう一つは、神前の柏手(かしわで)や土俵入りの柏手。これは、手を叩くことで、悪霊を払ったり、これから結界に入ることのあらたまりを意味する。

一本締め、三本締めのような、仲間としての確認、ケジメの意味もありますね。この場合、ケジメというのは「晴」に対しての「褻(け)」締めじゃないか、と密かに思っているんですが、どうでしょう。

それから、明治の劇評家が「国際的」といった、感動、賞賛の意味の拍手。そして、もちろん、宴会で歌にあわせて拍子をとったりする拍手もあります。

とくに調べたわけじゃありませんが、宗教的儀式で手を打つ習慣があるのは、どうも日本だけの珍しい習慣ではないでしょうか。

古文書類を集めた「古事類苑(こじるいえん)」の神祇(じんぎ)部には、千年前からの神拝礼式の定めがのっているんですが、二拍手、四拍手、八拍手と、二の倍数が昔からの基本になっている。ことにこの「八拍手」のことを「八開手(やつひらで)」といって、これを四度び繰り返すのが最上級の拝礼なんだそうです。合計三十二拍手、伊勢神宮の神官の正式の拝礼は、いまもこの古式を守っているといいますね。そういえば、出雲神社は四拍手です。

ちなみに、一本締め、三本締めなどを「手締め」といいますが、もともとは「手打ち」といっていたようです。江戸は武家社会ですから、これが「手討ち」に音が通うのを嫌って、「手締め」というようになったらしい。

「柏手」は「拍手」を間違えてよんだのが始まりですってね。すっかり定着して、拍手とは別物になっていますが、ことばの世界には面白いことが起きるものです。

(更新日:2006年12月13日)

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