第3回目になりました。もうみなさんお慣れになって、呼吸はわかってらっしゃるようですね。
今回の選は紀久乃舎音火女(きくのやおとひめ)、龍門亭登鯉(りゅうもんていとうり)。そして私、篝火舎心亭(かがりやしんてい)が立評(たてひょう)をつとめます。
地口附は、大きく3タイプに分かれます。
一つは元句と文章の構造が同じタイプ。たとえば「蒔(ま)かぬ種は生えぬ」だったら、「○○ぬ○○は○○ぬ」という文章の形が同じ、ということです。このタイプはたくさんありました。平場の「炊かぬ飯は食えぬ」「鳴かぬ鳥は飼わぬ」、七秀「咲かぬ種は植えぬ」「冴(さ)えぬ洒落は受けぬ」「撒(ま)かぬ金は増えぬ」、五客の「足らぬ酒は酔えぬ」「合わぬ足袋は履けぬ」。
二つめは、語呂が全部合うタイプ。語呂というのは、この場合、母音のことをいいます。もちろん音の数もいっしょです。たとえば平場の最初の句、「嫁遠出母の愚痴」「オエ オオエ アアオウイ」、「夜目遠目傘の内」全部あってます。これは努力賞ものが多いですね。
ちなみに、文章構造が同じなら、語呂が合ってなくてもいい。「蒔かぬ種は生えぬ」の母音は、「アアウ アエア アエウ」ですが、たとえば五客の2句め「負けぬ品は買えぬ」は「アエウ イアア アエウ」で違いますね。
もう一つは元句との関係で面白くなる、二句映発タイプ。「映発」というのは光や景色が映りあうことですね。たとえば五客の最初の句「マカオ金が足りぬ」。マカオでは元になる金がないとどうにもならない。だから、「蒔かぬ種は生えぬ」、お金を使わなきゃダメ、という元句との映発があると思ったのですが、どうでしょうか。
今回の天「馬に羽は生えぬ」は、「天馬空を行く」ということばがある、それをあえて「羽が生えぬ」といった。天馬には羽が生えているというが、馬に羽が生えるわけがないだろうという…。そこが面白いんじゃないか。天馬というイメージの位の高さ、格の高さから天にした「位取り」です。
それから、地の「嫁ともめ今朝も愚痴」は、平場の「嫁遠出母の愚痴」とほとんど同じ内容ですが、「遠出」ということばは、単に遠くへ行くという意味ではなくて、江戸趣味のことば遊びの世界では芸者の話になるんですね。ですから、これを位の高いところへ持ってくると、ややこしいことになる。芸者の話になって母の愚痴がまた出たというほうが面白いかもしれませんが、この会にはふさわしくない、つまり会の性格も、選の判断基準の一つになります。
「沓附(くつづけ)」は、五七五、17文字あるうちの5文字が「思い出し」「見つけ出し」と決められています。そこで、「そう言えばそうだね」というようなものを見つけ出して、ちょっとした物語を五七で作る。これを江戸訛(なま)りで「めっけもの」といいます。
たとえば、平場の2句め「駅間近入れ忘れた歯思い出し」。こういうことはしょっちゅうあって、「そうなんだよね」と小膝を打って同感する人もいるんじゃないでしょうか。これは「駅間近」だから面白い。引き返そうかどうしようかという、半端なところで悩んでるわけです。
の句は、「入れ忘れた歯思い出し」よりも「忘れた入れ歯思い出し」のほうが流れがスムーズかもしれませんね。
それから、人がやりそうなことだけれど、ほんとうは違うのに、それをこと荒立てていう面白さですね。平場の4句め、「若い日の苦労美化して思い出し」は、めっけものであると同時に「美化して思い出し」という、ことさらの指摘と表現が面白い。
もう一つは、ことば遊び。人の位の「諸経費の深刻漏れを思い出し」の「深刻」は変換ミスではなく、申告漏れが深刻なことになっちゃったということですね。五七五に地口が入っているのは、ことば遊びの会では許されるし、選者によってはむしろ評価される。ただ川柳の会などでは嫌われることがあるようです。
五客の四句め「赤とんぼセピアの夕日思い出し」は、「赤とんぼ」という季語で切れてますから、切れがあって季語がある、俳句調ともいえるでしょう。
また、天の「妻に似た嫁を倅(せがれ)は見つけ出し」。これは選者の虫の居所も多少あるかもしれません。ちょうど身の回りにそういうことが起こっていると、いい句だなと思ってしまう。
「妻に似た嫁を倅は見つけ出し」は「妻に似た嫁を倅が見つけ出し」とすることもできますが、どっちがいいかしら。「倅が」というと倅のほうに比重があります。「倅は」は「妻に似た嫁」に比重がかかっているでしょうね。
今回の題は、「思い出し」「見つけ出し」ですが、このような連用形で留めるやり方は、俳句などの会では「川柳留め」と呼んで、しりぞけられることが多いようですので、念のため。
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