今回の選者は、龍門亭登鯉(りゅうもんていとうり)、紀久乃舎音火女(きくのやおとひめ)。そして、わたくし篝火舎心亭(かがりやしんてい)が立評をつとめます。
地口附 「百人一首 上の句」
地口附を評者や選者が選ぶときのポイントと、みなさんが作品をお読みになって楽しむときのポイントは、おそらく同じではないでしょうか。
まず基本的に一句立ちしていることです。説明なしに言っていることがわかる、これを一句立ちといいます。今回の題は「百人一首の上の句」ですから五七五。その五七五が説明抜きで、ああ、いいこと言っているなぁ、おもしろいこと言うなぁ、と感じさせる句ですね。
次に、元句が彷彿(ほうふつ)としてくるような句。地口附は元句をどうもじるか、というところに面白さがあることば遊びです。元句がまったくわからないということは、元句から離れて自由に作ったということでしょうから、問題の主旨が違ってしまいます。
元句を彷彿とさせるには、文章の構造が元句と似ているか、音と調子が似ているか。そのどちらかでしょうね。これを守ればうまくいく。これはお作りになるときのポイントです。
今回、投稿していただくとき、元句を書いてくださいとお願いしました。これは、本来はしないことなんです。ことば遊びは、投句する方と選者との知恵くらべです。ですから元句を書いて出すのは、選者に対して失礼にあたる。しかし、百人一首をすべてそらんじているという時代ではありませんから、書いていただかないと作品に入っていけないことがあり得ます。今回の選の発表にも、元句を五七まで表示しました。
「キゝ」が天・地・人・雲についていますね。これは選んだ句のどこがよかったか、どんな風に解釈したか、という選者の意見を七七か五七五の形で詠んで、選んだ句につけるものです。
先ほど申しましたように、ことば遊びは投句した人と選者との知恵くらべですから、選者がつくるキゝは「この句の元句はこうでしたね」「ここが面白かったですよ」とこたえることが前提になっていて、その範囲で、非常に狭いところで考えることになります。
それから、今回の投稿では五字冠(ごじかぶり)が目立ちましたね。つまり、五七五のうちの、最初の五文字だけを元句からとってきて、続く七五はまったく自由にお作りになったものですが、これも地口附とは主旨が違います。
川柳 「二字畳語 読み込み」
今回の投稿で目を引いたお作についてお話ししましょう。
「ハラハラがドキドキを見る発表会」
二字畳語が二つ使われていますが、「ハラハラ」が「ドキドキ」を見るわけがない。「ハラハラしている人」が「ドキドキしている人」を見ているんですね。それを「ハラハラ」と「ドキドキ」で表現した、典型的な擬人法です。擬人法は川柳の特色の一つですね。擬人法をじょうずに使うと目立つ作品になるようです。
「バラバラの意見喧々諤々(けんけんがくがく)と」というお作。
この「喧々諤々」という言葉、辞書に載っているから間違いではありませんが、もともとは、侃々諤々(かんかんがくがく)と喧々囂々(けんけんごうごう)が一つになってできたもののようです。
この句は声に出して読むと「バラバラのイケンケンケンガクガクと」。「イケンケンケン…」というところで、「ケン」が続く。これは意図的にそうしたのでしょうか。私は、さほど効果的ではないかもしれないと思いましたが…。
「さらさらと過去を流した砂時計」
ご投句は「さらさらと過去を流して砂時計」でした。もちろん良い句なのですが「過去を流して」のところが気になりました。「過去を流した」にしてはどうでしょうか。
「過去『を』流し『て』」のように、「なになに『を』なになにし『て』」という形は、川柳の会では「をて柄調」と呼ばれることがあります。説明くさくなるのでおよしなさい、ということでしょうね。
「軒軒(のきのき)に照る照る坊主ぶらぶらと」
二字畳語が三つ入ってます。そこに12文字とられてしまうから、残りは5文字。それで意味の通じる句にしている。こういうのを昔の人はお手柄といいました。
「下手な嘘もうアキアキと野分けゆく」という句。
嘘にはもう飽きが来た、秋が来た、秋だから野分、という連想は、それなりの面白さがありますが、こうした縁語・掛け調を極端に嫌うグループもあります。
それから、今回の出題は「二字畳語」ですから、三字畳語でお作りになってはいけません。たとえば、「祭り人どいたどいたの威勢よさ」の「どいたどいた」、「海晴れてのたりのたりと春が来る」の「のたりのたり」。ちなみに、「のたりのたり」の元句は「春の海ひねもすのたりのたりかな」。これが本歌取りですね。蕪村は怒るかもしれないけれど。
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