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「銀座」の美味しい魅力をお届け――。
料理評論家・山本益博さんが、銀座の街を歩きながら、気軽に訪問できる食の名店と、銀座らしいおすすめの場所を紹介していきます。さらに、散歩を楽しくする、写真の撮影のコツもお教えします。
第8回となる今回は、おとなが憩う甘味処、銀座7丁目「虎屋菓寮」を訪れました。

いま銀座に仕事場を持つ私は、それまでは週に一度は銀座に顔を出さないと禁断症状が起こるほどの銀座大好き人間でした。以前は六本木に仕事場があり、西荻窪の自宅から、わざわざ遠回りしてまで銀座へ出て昼ごはんを食べ、山野楽器で新譜のCDを探し、近藤書店で新刊本を買い求め、それから仕事場へ向かうのでしたが、時間の許すときには甘味処に立ち寄るのがいつものコースでした。
すし、そば、てんぷら、うなぎ、とんかつなどの食事には原則甘味はついてきません。フランス料理の食事に慣れた私は、食事の最後はどうしても甘いもので締めくくりたい。間食とかおやつという感覚ではなく、フランス料理のデザートのつもりで甘味をいただくのですが、それにもってこいの1軒が「とらや」なんです。足を休めて、買い求めたばかりのCDの袋を破って解説書を読んでみたり、新刊書のページをわくわくしながらめくりはじめる。言ってみれば、銀座にある私の「峠の茶屋」。

夏になると、必ず注文するのが、というより、これが食べたいとやってきてオーダーするのが「宇治金時」です。おおきなガラスの器の底に小倉あんが敷かれ、山盛りのかき氷の上から和三盆糖で上品な甘みを生んでいる抹茶シロップがたっぷりと、濃い緑が氷に映えるようにかけられています。しばし見惚(みほ)れてしまう爽(さわ)やかな美しさです。
でも、のんびりしているわけにはいきません。匙(さじ)で味のついていない氷をひと掬(すく)い、柔らかな口当たりのかき氷で口の中がひんやりとしてきたら、抹茶シロップのかかった頂上から攻めてゆきます。涼風が体中を駆けぬけてゆくような爽快感があります。
そうして、そろそろ小豆が恋しくなってきたところで、小倉あんのある底辺をめがけて掘削作業。上層部のかき氷を器の外に落とさないように気持ちを鎮めて丁寧に作業を進めなくてはなりません。小倉あんが顔を出したら、あとはしめたもの、小倉あんに抹茶シロップをほどよく合わせ、氷を少しずつ溶かしながら、至福の時間をゆっくりと楽しみます。
急いでなくとも匙を運んでゆくうちに、眉間のあたりがツンといたくなってきます。そうなったら、次の作業に入ります。匙をゆっくりと大きく動かしながら、かき氷を溶かしてゆくんです。
小豆色に深緑色がまざって渾然(こんぜん)とした「大和」の色合いに移ってゆきます。そう、お若い方ならどなたも御存じの「スムージー」ですね。かき氷がただの水分になる直前の状態と言えばよいでしょうか。これがかき氷にはない美味しさなんですね。「とらや」で宇治金時をいただくときの、私の現時点での最上の攻略法です。


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