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心地よい暮らし

手作り保存食 まるごと梅しごと

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5月末から6月にかけては、梅が出回る季節だ。昔から疲労回復や整腸作用、殺菌効果があると言われている梅は、保存食としても優れた食材。今回は「梅が体に良い」と言われる科学的根拠を明かすとともに、「梅しごと」と銘打って、本格的な梅干し作りをお薦めしたい。梅干し作りを始めて35年、和食専門店「延楽」の乗松祥子さんに教えていただく。

梅パワーの正体は、クエン酸の働き

梅干しは日本の保存食の代表。梅の実に含まれるクエン酸の効果で、きちんと保管しておけば長年経っても腐らない。江戸時代には軍糧として、梅干しの塩分が命綱だった地域もある。しかし、保存食としての価値以上に、梅が重宝されてきたのは「梅干しを食べると疲れが取れる」という言い伝えのためだ。

この言い伝えが、科学的な根拠に基づくものだったことが証明されたのが、1937年。ドイツの化学者、ハンス・クレブスによって、糖質・たんぱく質・脂質の3大栄養素が、体内でエネルギー源に変わっていく代謝の過程で、梅や柑橘(かんきつ)類に含まれるクエン酸(酸っぱさの素)が、大きな役割を果たしていることが解明された。

梅干しのようにクエン酸を大量に含む食べ物を摂取していると、エネルギー源は好循環する。摂取しないと、疲労物質の乳酸が体内に蓄積されたり、脂肪がたまったりして、悪循環に陥る。この回路は「クエン酸サイクル」と呼ばれ、発見したハンス・クレブスは、後にノーベル生理学・医学賞を受賞した。「梅は体に良い」と信じ続けた古(いにしえ)の人びとは、彼のノーベル賞理論を経験として体得していたのだ。

提供:保健同人社 図は一部改訂あり

またクエン酸には血圧を下げる効果もある。クエン酸からアデノシンという物質が生まれ、これが血管を拡張させるため、血圧が下がるという仕組み。またクエン酸は十二指腸でクエン酸ソーダという物質を作り、これが血液をサラサラにするとも言われる。

「梅干しを1日1個は食べて欲しいです。梅干しを欲しがる身体を作ることが、まず大切ですね」と乗松さん。クエン酸サイクルが正常に働いている身体は、自然と酸っぱい食べ物が欲しくなるのだ。

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糖質がグルコースとなって、一部はグリコーゲンとして肝臓に蓄積され、残りはエネルギーの源となるピルビン酸に。

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クエン酸を摂取していると、ピルビン酸がアセチルCoAに変化し、その後、クエン酸サイクルの中に入って、エネルギー源として好循環。

3

クエン酸が不足すると、ピルビン酸は、俗に疲労物質と呼ばれる乳酸に変化。またアセチルCoAは脂肪に変化して、体内に蓄積され、悪循環。

「梅パワー」のある梅の選び方

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青梅。梅酒作りにはこの青梅と、黄梅の2種類使うと良い。
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黄梅。梅干し作りに使う。

しかし、昨今では、梅や梅干しも変わってきたらしい。ひとつはクエン酸含有量の変化。乗松さんは、「梅は野バラとスモモの交配から生まれたものですが、次々と品種改良された結果、クエン酸含有量の乏しい梅が多く出回っています。また防腐剤を使用した梅も、防腐剤を抜く時に一緒にクエン酸も抜けてしまいます。梅干しにする際、塩のほかにも色々な味付けをして販売される場合もあります」と言う。乗松さんはクエン酸濃度が高い杉田梅をずっと使ってきたそうだ。

もうひとつは、温暖化や異常気象のための品質劣化。「昨今、梅の実が育つ時期に雹(ひょう)が降ったり霜が降りたりしたことがあり、梅の表皮がはがれるような状態になりました。良質な梅が、どんどん取れなくなっているのを痛感しました」と乗松さん。

ではそんな今、梅を使って保存食を作るとしたら、どんな選び方をしたらいいのだろうか。

「梅酒を作るのなら、未成熟の青梅と、成熟した黄梅の2種類を使ってください。梅干しを作るなら、黄梅を使います。注意して欲しいのは、梅の品種。その地域に昔から残っている梅が一番です。いつその品種が作られたかは、インターネットなどで簡単に調べられます。新しい品種だと、形は大きくて立派でも、クエン酸含有量が少ない可能性があります」と乗松さん。

梅本来の良さを引き出すには、自分で本当に良い梅を選び、加工前には水で洗った後にホワイトリカーで洗浄してあげることが大切。梅を選ぶことこそ、「梅しごと」の第一歩なのだ。

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