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埼玉県の西部、越生町(おごせまち)。春先には多くの散策客でにぎわう越生梅林を過ぎ、山あいの林道を奥へと進む。左右に迫る深い緑、道の横には水音も清(すが)しいせせらぎ。やがて道順に不安を感じ始めるころ、一軒の家がぽっかりと現われる。それが、南達雄さん・千代さん夫婦の住まい、その名を 「山猫軒」という。
入り口には猫やタヌキ、カエルなどの造形をちりばめた鉄の門扉。屋根に鉄で出来た巨大なカマドウマがのり、煙突のそばには銅造形の小さな掃除おじさんがいる。入り口のドアは、そのまま猫をモチーフにした銅の顔だ。
基本構造の締結部に金具は一切使わない日本の伝統工法のこの家は、建築にはまったくの素人だった達雄さんが、自ら山の木を切り、仕口(しくち)を刻み、多くの友人知人の力を借りながら2年近い日々をかけて建てたセルフビルド。家を飾る楽しげな造形物も、すべて親しいアーティスト達が作ってくれたものだ。
実は、達雄さんはプロのカメラマン、千代さんはコピーライター。都心のマンションで生活していたカタカナ職業の2人が、山暮らしを始めてすでに24年になる。格別、自然回帰派だったわけではない。達雄さんは「きっかけは、水と空気のきれいなところで暮らしたいという思いだけだったんですよ」という。
最初に借りたのは町田市の、林に囲まれた農家。そこを都市開発で離れざるをえなくなり、ようやく古い民家を見つけて移り住んだのが現在の越生町だった。建物を修理し、薪(まき)を割り、野菜を育て、ニワトリを飼い、豆腐やみそも手作りし……、都会での仕事を続けながらも、暮らしのすべてを自分達の手で作り出すのはとても面白かった。
「都会暮らしの頃は料理も全然してなかったのにね。主人は夢をどんどん実行に移し、私はそれについていくうちに順応しちゃう。不便を苦労と感じないタイプなのかも」と笑う千代さん。
知り合ったアーティスト達の作品を展示できるよう、週末だけ自宅を開放するギャラリー&カフェも始めた。そして、次に思い描いたのが、住まいそのものを自分で作るという夢だった。
土地を探し、ついに家作りを実現させたのは18年前のことだ。

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