南さん夫婦が越生町を選んだ理由のひとつは、米を作り、ニワトリを育てる場所が欲しかったからだ。町田で暮らしていた当初、庭先に作った畑のまわりで、ニワトリの放し飼いを試みたことがあった。
「主人はカメラマンだから、ビジュアル的に鶏のいる風景に惹(ひ)かれたんですよ。だけど、せっかく育った野菜を全部食べられちゃって」
自給率を高めながら現金収入を確保するため、田を借り、家のそばでは養鶏ができる土地に住むこと。それは、人里から離れていながらも都心に通えること、近くに水の流れがあることなどと並ぶ、大切な条件だったという。
古民家に住み始めたころは、家の横で、多い時には500羽もの鶏を飼った。縁側に卵を並べておくと、いつもきれいに売り切れた。約1反(約300坪)の休耕田を借りることもできた。米も野菜も、無農薬有機栽培。鶏糞(けいふん)は肥料になり、野菜クズはニワトリのエサになった。
米も野菜も、最初は試行錯誤を重ねたものだったが、20年を越えるキャリアの今ではお手のもの。
「でも、最近は耕作を縮小中なんです」と達雄さん。「もう58歳ですからね、だんだん体力に自信がなくなってきました」
今年は、野菜畑は120坪程度に抑え、隣接する田での米作りは農業の仲間でもある友人の画家に任せた。
「最初のころは何でも自分たちでやろうとしたし、それが楽しかった。けれど、もともと農業者じゃないから、歳をとると身体がついていかない。田舎暮らしには、夢だけじゃなく、体力も要るんですよ」
とはいえ、案内された畑には、ナスやトマト、サトイモ、ゴーヤ、インゲンなどさまざまな野菜が一面に育つ。くきは太く、実もずっしり大きい。ひと回りするだけで、十分過ぎるほどの収穫がある。
「採れたての野菜って宝石みたいなんだよね……」
ぴかぴかのナスを手に達雄さんがつぶやく。手塩にかけて育てる喜びは、格別のものだ。自ら開墾し、土作りをしてきた田には、友人が植えたイネがしっかりと根を張って風に揺れる。

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