その古いアパートは、壊して更地にするのが通常だったろう。しかし、解体には500万円近くかかる。だからこそ長い間買い手がなく、百瀬さんの目に止まることになった。
「建物の骨組みはしっかりした鉄筋だし、壁や天井を抜いてしまえば広くなる。壊すのはもったいないですよ」
幸い妻も「家らしさ」にはこだわらないタイプだ。
「居抜きの飲み屋でも倉庫でもOKという人なので全然問題なし。あとは、どう格好よくするかだけでしたね」
1、2階とも、壁はすべて壊して1部屋にした。天井板も床板も取り去って、撮影スタジオとしても使える高さを確保した。階下に降りる階段をつけるため、2階のコンクリート床に大きな穴も開けた。工事が進むのを見ながら思いついたことも多い。外廊下だったスペースは、もとのフェンス部分に壁を作って屋内に取り込む。ベランダも窓で囲って、もともとの掃(は)き出し窓だけを取り壊す。これで室内は格段に広くなった。

施工業者が作業していくかたわら、百瀬さんも腕をふるった。コンクリート壁に、薪ストーブ用の排気用の穴を開け、新しく設置したキッチンには折れ戸を作った。端材(はざい)をもらってこしらえた飾り棚は、大工たちに「きっと倒れる」といわれながらも、いまだ倒壊のきざしはない。こうして、アパートの基本構造をフルに生かして、2階にリビングとキッチン、1階には仕事場プラス寝室などの機能を置いた住まいは完成した。契約から工事の終了まで、ほぼ1カ月の速さだった。
前から使っていたアンティーク家具に合わせて、壁の色からカーテン選びまで考えたのも百瀬さんだ。

格好よさとは、住みやすさのことだと百瀬さんは言う。住み手にとって快適な家は自然と格好よくなっていく。だからこそ、なにげなく選んだだけという調度のひとつひとつが、この家ならではのスタイルを作ってゆく。

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