若いころは、カフェテラスのあるガーデンショップを経営するのが夢だったというたかしさんだが、自宅の植木を手入れしていた程度で野菜作りの経験はゼロ。土地を借してくれた静江さんの実家でも、本格的な農業はすでにしていない。家族の生活を支えるだけの収穫を確保するためのノウハウは、静江さんが援農ボランティアや新規就農者セミナーなどに行って学んでくる技術と、ネット情報が頼りだ。
「今はネットで調べれば病虫害対策なども出ているし、育てながらわかってくることもたくさんあります。自治体のセミナーで出会う農業者にいろいろ教わることも多いですね」
試行錯誤を繰り返し、この1、2年で作付けのローテーションも安定してきた。2人で耕す農地は約2000坪。年間に約50種の野菜を育てる。

消費者の立場からスタートした直販主体の農業だ。だから、自分達なら安心して買えると思えるものを作りたい。そのためには、農薬や化学肥料は極力使わない。手間と労力をかけても自家製の堆肥や米ヌカ、鶏糞(けいふん)を丹念に土に鋤(す)きこむ。ハウス栽培はせず、太陽を浴びて育つ露地栽培のおいしさを大切にする。収穫時期が短い作物など、販売所に並ぶのはわずか1、2週間ほどのものもあるが、それが本当の「旬」なのだとたかしさんは言う。「僕らは、夏の大根も冬のトマトも作りません。だって、おいしくないもの」
今年の夏は、トウモロコシを4500本植えた。毎日250本を収穫し、2週間半で完売。毎年作付け本数を増やしているが、それでも店頭に出す端から売れていく。レタスやトマト、コマツナなども、あっという間に店頭から消える人気野菜だ。野菜の箱に添えたプレートには、料理法のアドバイスを書いた。
「長年、営業に携わってきたから、どうすれば買い手に喜んでもらえるかを常に考えてます」
通常、農家の庭先販売は、売り値の回収率は7割程度といわれる。ところが荒井さんの販売所は年間平均97%。手をかけた野菜を収穫したてで出す、その信頼感があるからこそ、売り場が無人でも代金をごまかそうとする人もないという。
「近所の人と共にある農業をめざしたい」という2人の思いは、農地の減少が進むこの地域の中で、確かな形になりつつある。

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