しゃれた料理屋やバーが立ち並び、深夜までにぎわいを見せる東京・麻布十番。駅からほど近い一角に、小さなライブハウスがある。ジャズとカントリーを中心に、さまざまなバンドが出演するその店に、毎月第4木曜、60代後半とおぼしき客が次々とやってくる。アマチュアバンド「カントリークロップス」が演奏する日だ。
1回目のステージが始まる。ジョニー・ホートン、ハンク・ウィリアムス、レイ・プライス……、なじみ深いカントリーナンバー。ときにはプレスリーやキングストントリオも。7人のメンバーは皆、慶応大学の学生時代からの知り合いだ。グラス片手に耳を傾け、興が乗れば飛び入りで歌う客も、そのほとんどが同じ学舎(まなびや)に通った仲だ。

「では次は、峰岸くんが歌います」。紹介の声で、フィドル担当の峰岸慎一さんがマイクの前に立つ。ラジオ局で若者の深夜放送文化を作り上げ、社長へ。さらに会長へとのぼりつめた慎一さんも、ここではひとりのバンドマン。若い時から親しんだ曲の数々を、友と共に存分に歌い、演奏する。
「カントリークロップス」が結成されたのは、今から50年ほど前。慎一さんが大学1年の時だった。当時は皆、夏は海、冬はスキー場でバイトと遊びに明け暮れる慶応ボーイ。バンドがあればダンスパーティも盛り上がるだろうと、自然にスタートしたのだという。現在のメンバーのうち5人は結成時からの仲間で、当時、エレキギターは加山雄三さんが担当した。
「最初は皆、ギターしか弾けなかった。でも、なんとなく分担が決まって。カントリーにはフィドルも必要だから、僕は父が弾いていたバイオリンを使うようになりました」

しかし、卒業と同時にバンド活動は遠のいた。加山さんは俳優の道に進み、他のメンバーも、仕事に打ち込みつつ年に数回集まるのが精一杯だったという。
そして定年。別の仕事を続けながらも自由な時間が増えた。誰ひとり演奏への情熱は失せていない。エレキとスチールギターに先輩と後輩の2人を招けば、再始動は造作もないことだった。
「今は演奏日が同窓会みたいなもの。再開を知った友人が皆来てくれます」と慎一さん。年に一度は加山さん主催のコンサートに出て、3千人を前に演奏することもあるが、肩の力が抜け、古い友と一緒に好きな音楽を楽しむという姿勢は揺るがない。

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