「ようこそVILLA MIST(ヴィラ・ミスト)へ」。送ってもらった地図の隅に、そう印字されていた。斎藤一家の別荘があるのは蓼科の山あい。標高1600メートルの地は朝夕、濃い霧に包まれる。「ミスト=霧」の名をつけたゆえんだ。
未舗装の急坂を上ると、林の中の小さな建物にたどり着く。「昨日から大勢来てるのよ」。ほがらかに迎えてくれたのは妻の治子(はるこ)さん。ところが室内に入っても誰の姿もない。と、リビングの床のハッチから、ひとり、またひとり。「やあ、着いた?」「こんにちわー」。次々に登場してくる人。皆、床下にあるアトリエで土をこねていたのだ。

下りてみると、そこは6畳ほどのスペース。作業台に陶土(とうど)や手ろくろ、周囲には釉薬(うわぐすり)や絵の具が並ぶ。しばしばここを訪ねているというインテリアデザイナーとピアニストの夫婦は、ふた物や大皿を制作中だった。書道用の水滴に挑戦していたイラストレーターは、焼き物作りは初めてだとか。ポイントをアドバイスしながら、悟(さとる)さんが土を練る。見事な菊練り。「標高が高いから息が切れるんですよ」と言いながらも、その手付きはリズミカルで力強い。
アトリエの外には小ぶりの灯油窯が据えられている。ちょうど素焼きが終わったばかり。取り出す皿や小鉢がほんのりと温かい。悟さんや治子さんの作品、友人が作ったもの、どれもそれぞれに個性的だ。

建築デザイナーの悟さんが、アトリエと窯を併設したこの別荘を建てたのは12年前。以来、多忙な時間のあい間を縫って、月に一度は訪れる。最初のころは家族で過ごすことが多かった。やがて2人の娘が大学生になると、学生仲間も遊びに来るようになった。そして子供たちが独立した今は、夫婦だけで、あるいは親しい友が集まったり、ときに娘が加わったりする。
「ここでの過ごし方も、集まるメンバーも、年齢とともに少しずつ変わってきました」という悟さん。
それでも変わらない楽しみが陶芸だ。悟さんが始めた趣味は治子さんや娘たちに及び、さらに友人たちへ広がった。ここを訪れる人は誰もが、アトリエで土に触れて自由に制作し、数カ月して悟さんの手で焼き上がるころにまた足を運ぶ。そして、完成した作品を前にあれこれ話しながら、おおいに飲んで食べ、大自然の中での一夜を過ごすのが、なによりおもしろいのだ。

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