悠々自適に趣味生活を送っているとも思える落合さんだが、実は日々の暮らしは結構忙しい。広い畑の世話があるのだ。
今の住まいがある地域は、若いころに夫婦で暮らした場所だ。早苗さんが育った土地でもある。義母をみとるため、定年後に戻った。近くには、義母が子供たちのために野菜や果樹を育てていた800坪の農地がある。相続した早苗さんの兄弟たちが現役で仕事を続けている今は、落合さん夫婦がその管理を引き受けているそうだ。
もちろん、農業のプロではない2人が耕作するには800坪は広すぎる。植えて数十年を経たキウイやクリ、山グルミの木が繁る一角で、夫婦で育てているのは少しの野菜と、春においしい芽をつけるタラの木、そして一番に力を注いでいるのがブルーベリーだ。
夏の終わり、たわわに実ったブルーベリーを2人で摘み、早苗さんは大量のジャムを作る。信仰するキリスト教会のバザーに寄付するためだ。粗糖(そとう)とレモンだけを加えて作ったおいしいジャムは、毎年心待ちにしている人も多い。
アパートの庭も2人で作る。数々の花を育てて写真に撮るのは早苗さんの楽しみ。写真はパソコンでポストカードに仕立て、これもバザー用に寄付する。睡蓮(すいれん)が育つ小さな池や、野鳥を呼ぶ餌(えさ)台は落合さんがこしらえたものだ。シジュウカラ、メジロ、ヤマガラ、カワラヒワ、シメ……餌台に置いたヒマワリのタネやミカンを食べに、鳥たちが次々とやってくる。常連の鳥は十数種。
「シジュウカラは鳴き声も性格もいいですね。メジロは姿がきれいだけれど、なかなか気が強い。2人でいつも食卓から眺めて、そんな話をしています」
自慢できるような趣味は何もないんですが、と話す落合さん。でも、ヨットも、畑や庭も、自分の手で作り上げ、長く親しんでいけるという意味では共通だ。
「どれも80歳、90歳になっても続けていけることばかりです。なかでもやはり、ヨットに出会えたことはよかったですね」
晴れた日は、海に行きたいし畑に出たい。木工仕事もしたい。次に作るなら、エンジン付きのボートか、櫂(かじ)をつけた和船か。迷いながらも、夢は広がる。


工作好きの落合さんは、廃品を拾って上手に利用するのもお得意。現在、朽ちてきた餌台の屋根付きの新バージョンを製作中なのだが、屋根部分にはプラスチックの覆いがついている。聞けば、近所に投棄されていた衣裳ケースをカットしたものだそう。直角の屋根に、ケースの形状がぴったり!

落合煦彦(おちあい・あつひこ)
1936年北海道生まれ。幼少期には、宣教師をしていた父の仕事で、日本領だったパラオで暮らしたこともある。戦争が激化して引き上げた後は、福島県の母の実家に住み、高校からは千葉県へ。印刷会社勤務を経て、小学校教師として全国各地の学校で教えたのち、リタイア後の楽しみにヨットの操船を習う。神奈川県に越してからは、三浦半島の長浜がホームグラウンド。

文 :秋川 ゆか
写真:長尾 浩之
(更新日:2006年12月08日)
※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。