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グラフィックデザイナーの若原勝政(かつまさ)さんの仕事場兼住まいは、都心の閑静な住宅街にある。息子たちはすでに独立し、イラストレーターとして活躍する妻の典子(のりこ)さんとの2人暮らし。建築の道に進んだ長男の設計で4年前に建てた家で、それぞれの仕事に取り組みつつ穏やかな暮らしを送っていく……はずだった。
ところが、新居に越して間もなくのことだ。2人には新しい肩書きが加わることになった。「骨董(こっとう)屋」である。
訪ねた住まいは、シンプルなフォルムの黒い3階建て。すっきりとモダンな外観に、外に置かれた大壷(つぼ)や木桶(おけ)の古びた味わいがよく似合う。横にはもう一軒、昔ながらのたたずまいの小さな2階屋が建っている。玄関先に「ギャラリー上り屋敷」の文字。それが、若原さん夫婦の骨董店だ。
「家の新築を計画したころは、商売をする気など毛頭なかったんです。なのに、ついついこういう形になって」と勝政さん。
住んでいたマンションの近くにほどよい土地を見つけ、3年かけてじっくりプランを練り、いよいよ着工して上棟式を迎えた日、隣家の住人が声をかけてきた。家を買い取ってくれないかというのだ。
「隣の土地は借金してでも買えって言うけれど。まさにわが家を建てている最中にですよ」と笑う典子さん。
結局、買った。カタカナ商売はいつまで続けられるかわからない。この家を拠点に、いっそ、憧(あこが)れだった骨董露天商をしよう。典子さんが古物売買の許可を取り、手探りの骨董商いが始まった。
もちろんメインの仕事は、今もデザインとイラストだ。骨董屋はいわば趣味の一環ともいえる。しかし、好きな品に触れていられる楽しさに、2人の生活は大きく変わった。買い取りの依頼が来ると関東一円どこでも車を駆って出向き、品物を見たい人からの予約があれば、ギャラリー上(あが)り屋敷の扉を開く。月に1、2度は神社の骨董市にも出店する。冨岡八幡宮の市など、大勢の骨董好きでにぎわい、いつも座る暇(いとま)もないほどの盛況だとか。
「まだまだわからないことばかりで、値段ひとつでもお客さんとのかけあいから学んでます。時には安くしすぎてしまうこともあるけれど、楽しみでやっているんだからいいの」
勝政さんが修復や力仕事。典子さんが客との応対。二人三脚の商いは、いつしか単なる趣味を越え、日々の暮らしの一部として深く根を下ろしていった。

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