もともと若原さん夫婦は若いころからの骨董好き。そのキャリアは、同じ美大の学生として知り会った当時までさかのぼる。
「画料が入るたび、古伊万里の皿などを買い求め、日常に使っていました。学生でも買えるような安い品ばかりでしたけど、見ているだけでもうれしくて」と典子さん。一緒にドライブに出て、あれこれ古道具を拾ってくることもしばしば。美大の学園祭では骨董市の出店もした。
「売ったのは、たまたま出会った老人が譲ってくれた品々でした。目の肥えた先生が買ってくれてね」と勝政さんも振り返る。「その老人からは、いいものをいろいろ見せてもらい、勉強させてもらいました」
いつか2人で、骨董の露天商をしながら各地を歩きたい……何度もそんな話を交わした。けれども、仕事、結婚、子育てと続く多忙な日々に、ほのかな夢はやがて遠のいていった。
とはいえ、骨董から離れていたわけではない。時代を経た品々の持つ心地よさは、若原家の生活に不可欠のもの。食器、家具、花器……、いつも暮らしの中に古い道具の数々があった。
好みは、高価な鑑賞骨董ではなく、日常で使えるものや、ちょっと楽しいもの。それは、今の住まいを見てもよくわかる。
2階に勝政さん、階段の踊り場に典子さんの仕事場を造り、3階にLDKを配置した屋内は、日用品もほとんど見えず、きわめてシンプル。そんな中にごくさりげなく、古い木の家具や壷(つぼ)、掛け軸などが飾られている。典子さんのイラスト作品を収納しているのは、洋行がめずらしかった時代のトランク。棚には、欠けやひびをていねいに修復した赤絵や古伊万里の器が並ぶ。ふだん使いの食器にはすべて、こうした古いものを使っているのだという。

50代後半になって学生時代の夢を実現した今、2人のいちばんの楽しみは買い付けだ。家を壊す前など、あるものをまるごと買い取ってほしいという要望も多い。
典子さんは「そういう時は必ず、汚れたままにしておいてって言うの。きちんと箱に入ったような名品はつまらない。土足で上がって品物を探すような家なら最高です」と話す。
埃(ほこり)の積もった中、ふと目につく美。それは石だったり、鉄瓶だったり、古い着物やカメラだったり。
「宝探しの楽しさですね。道楽者の残骸(ざんがい)を見つけて、次の世代に引き渡す。それが私たちの道楽なんですよ」

※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。