「古い幼稚園は、昔暮らした米軍ハウスと、どこか雰囲気が似ているところもありました」
しかも、一般家屋と違って、内部は広く天井も高い。制作の場にはぴったりだ。長く使っていなかっただけに、雨漏りはあるし、生活するには不便も多い。でも、ペンキを塗ったり木工の腕を振るったり、建物に自分で手入れしながら大切に維持する暮らし方は、米軍ハウスでも1年間滞在したフランスでも同様だ。昔の建物は造りもシンプルだから、自分でも改装できる確信もあった。

帰国して以来、制作のあい間に住まい作りに取り組んでいった。
「リフォームの実作業は僕の担当。仕事を再開していた妻は、その結果を楽しみにしてくれてる感じかな」
94年に郷里に近い松山市で初の個展。それからは油彩と彫刻、ドローイングと表現を広げながら作家活動を続ける。一方、横浜や東京の美術館でワーク・ショップの講師を務め、地元では、水彩画や油絵の教室も開くようになった。
家の改装は今も続いている。
「どんどん古くなるからやるしかない。でも楽しいですよ。資材を探したり、どうすればよくなるか工夫したり」と真鍋さん。「自分で作った箱なら、思い通りに直すこともできる。望む形の家にしていくのと、自分の思いを絵や彫刻にするのは、感覚的に一緒なんです」

費用はかけない。拾ったもの、もらったものも住まいの中にはいくらも見受けられる。台所には、米軍ハウスからもらってきた吊り戸棚や照明がついている。業務用キッチンももらいもの。ウッドデッキの材木も、近所の人がくれた木を再利用した。扉に取り付けたノブなどフランスから持ち帰ったものもある。
「やはり好きなものを身の回りに置きたいですし。向こうで買うと安いんです」
次の課題はリビングの雨漏りの修理と、はげたペンキの塗り直し。
「それと、できれば耐震性の強化や増築にも挑戦したいんですよ」
とりあえずの気持ちで住み始めた幼稚園舎。付近の古民家に心が動いたこともあった。でも、今では手塩にかけたこの住まいが、家族と暮らし、自らの作品を生み出すためのかけがえのない場だ。
庭で夢中になってサッカー遊びをする子供たちも、もうじき大工仕事を手伝える年齢になる。妻が幼少期を送ったこの場所に、また新たな思い出が加わる。


料理もお得意の真鍋さん。ツマミや取っ手の形が面白い鍋は14年前の帰国時にパリの厨房(ちゅうぼう)専門店で買ってきた鍋で、毎日の調理に活躍している。夫婦2人とも「道具」が好きで、常に吟味して選んでいるとか。フランス生活から持ち帰ったのはこの鍋とドアノブ、そして「建築や絵画を数多く見たり、多国籍の人と親しく触れることで見つけた、自分たちの生き方」。それが今の暮らしのベースになった。


真鍋 武(まなべ たけし)
1954年愛媛県生まれ。武蔵野美術大学造形学部美術科卒業。学生時代のアルバイトが縁で絵の具メーカーに勤務した。立川や福生周辺の「米軍ハウス」で生活したのち、夫婦で1年間パリで暮らす。帰国した93年から茨城県で生活しながら、平面・立体の作品を発表し続けている。個展、グループ展など多数。妻の道子さんは一級建築士で現在はエクステリアの設計が仕事。2人の息子との4人暮らし。

文 :秋川 ゆか
写真:窪田 勇
(更新日:2007年02月26日)
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