自転車にはいろいろな楽しみ方があると岩上さんは言う。
一人で走っていると、自分が変化していくのがおもしろい。つらかった坂がらくになり、同じ距離を進むタイムも変わる。体が鍛えられていくのが手に取るようにわかるのだ。仲間と走るのもいい。遠距離の難コースに挑戦したり、ハイキング気分で自然の中を流したり。レースやイベントなどにも参加する。見知った顔に出会い、情報交換するのも楽しい。もちろん、走った後の飲み食いも大切だ。メンバーの別荘を終点として走り、夜は岩上さんが料理を担当して宴会、というのも今では恒例行事になった。

このごろは2人の娘も、時々はマウンテンバイクで一緒に走るようになった。以前から続けているスキューバダイビングも、家族全員の趣味だ。
仕事以外では包丁を持たないという料理人は多いが、岩上さんは根っからの料理好き。仲間との集まりだけでなく、家族のためにも日常的に台所に立つ。
「自分が食べたいものを、皆にも食べてほしいからね。喜んでくれるとうれしいし」
話しながら、遅めの昼食を整えてくれる。玉ねぎを刻み、卵を溶く。そのすばやい手さばきはさすが。見る間に3品の料理ができあがる。子供たちの朝食によく作るというオムライスと、飲み会で人気のからあげ、サラダ。いかにも100キロ以上を走った後にふさわしいパワフルなランチだ。ビールをあければ、心地よい休日の午後が過ぎていく。
「自転車は、年齢を問わずに楽しめるもの。いくつになっても続けていきたいですね」と岩上さん。

クラブのメンバーには、70歳を過ぎても毎日のように乗っている人もいる。シニア枠のレースにも出る。漕ぐスピードは岩上さんを軽く超える。
「そういう人がいっぱいいるんですよ。僕の目標です」
レースへの出場もできるかぎり続けたい。もっと遠くにも出かけたい。そして、一人ストイックに漕ぎ続けるだけではなく、自転車仲間たちとの交流を生涯の楽しみとしたい。ロードレーサー風のスタイルで町を走る自転車乗りを見かけたら、そんな思いを抱いた男と思っていい。自転車は、決して孤独なスポーツではない。


自宅のごく普通の台所に、なぜか業務用ビアサーバーが。「知り合いのレンタル店から借りてたら、店が閉店して、そのままウチに居ついてしまったんですよ」。もともと家で生ビールが飲みたくて借りたもの。びんや缶だと開けたら全部飲まなきゃいけないけれど、これなら飲みたい量だけ注げるからいいとのこと。夏場は毎日のように活躍する。自宅宴会の必需品でもある。


岩上 正敏(いわかみ まさとし)
1960年埼玉県生まれ。子供のころから料理が好き。フレンチにもひかれたがフランス語が苦手で和食の道へ。高校卒業後、和食の店に包丁修業。結婚後は妻の実家の料亭を手伝う。料亭閉店後、昨年秋からは東京・築地にオープンした人気漫画のコンセプト店「築地魚河岸三代目」の板前を務める。漫画に登場するめずらしい魚、各地のおいしい料理法などを楽しみに、全国から訪れる客も多い。
文 :秋川 ゆか
写真:窪田 勇
(更新日:2007年03月23日)
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