宿利さんが「ハイエース」を選んだのは、毎日の生活で使うためでもある。大型のキャンピングカーと違って、住まいの狭いガレージにも問題なく停められる。夫婦で買い物に行くにも、ちょっと近所に出かけるにも、この車がふだんの足だ。
そして、改造に取り組む場所も、自宅のガレージ。奥には工具が天井までびっしりと並ぶ作業室がある。カンナ、押し切り、糸ノコ……昇降機やトリマーなどプロなみの電動工具も数多い。すべて、ハンドメイドキャンピングカーのために揃えた道具だ。
「時間があれば、ずっと何かしら車に手を入れてますね」
ときには依頼を受けてキャンピングカーを作ることもある。これまでに請け負ったのは5台。リタイア後の今は、ゆっくりと作業を続けられるだけの時間も増えた。

自宅に停めている時、このキャンピングカーはもうひとつの役割を持つ。宿利さんの書斎になるのだ。自分でこしらえた車内は快適なうえ愛着もひとしお。家から電源を引けば、テレビも電子レンジもいくらでも使える。思い立ったらそのままコンビニへ買い物にも出られる。
「でも一度、電源をつないでいるのを忘れて発進して。コードを引きずったまま走ってしまった。それからすぐに、車のコンセントを抜けやすい位置に変えました」
友人が来れば、車の中は宴会の場にもなる。
「簡単な料理もできるしね。家内も気をつかわずにすむ」
もちろん旅にもしじゅう出る。1、2泊程度の近場のキャンプ、HMCCの例会キャンプ、妻の光枝さんと出かける1週間以上の旅も年に1、2回。
「年間30泊は超えますね。1人で行くのは秘湯めぐり、家内と行くのは観光地が多いかな」

旅の記録をまとめたファイルは40冊以上。「夫婦で行く紅葉を訪ねて」「九州山陰南紀の旅」「気ままな一人旅・温泉を訪ねて」……ファイルのタイトルを見るだけで楽しさも伝わる。「夏の九州山陰の旅」と題したファイルには、熊本から神奈川まで15もの県名も。好きな場所に移動しながら寝泊りできる、キャンピングカーならではの旅程だ。
「不便もあるけれど、キャンプとは不便を楽しみに行くものですから」
シニアになっても、夢を持ってなにかをやろうと思えば、お金をかけない楽しみはいくらでもあると言う宿利さん。桜の咲くころから秋の紅葉まで、手作りの愛車を友に出かける、旅のシーズンは続く。


アイデアのひとつひとつに驚かされる宿利さんの車だが、車体の下にあるこの蛇口は……? コックをひねると熱い湯が出てくる。「夏には80度まで上がります。インスタントコーヒーもカップ麺も作れますよ」。エンジンの冷却水パイプを、車体下部につけたタンク内に通してあるのだとか。熱くなった冷却水がタンクの水を温めるという簡易温水器。キャンプサイトでは注目のまとだ。

宿利 賢治(しゅくり・けんじ)
1939年福岡県生まれ。子どものころから、工夫してものを作るのが好きだった。大手建設会社の輸送課で各種特殊車両の運転に携わったのち、観光バスの運転手として全国を回り、その後、大型トレーラーのドライバーを定年まで勤める。常に車にかかわる仕事をしてきた。キャンプを趣味にしはじめたのは30数年前。現在は手作りキャンピングカーの愛好家組織「HMCC」千葉支部のテクニカルアドバイザー。

文 :秋川 ゆか
写真:山口 敏三
(更新日:2007年04月27日)
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