結婚してからも2人で何度も旅に出た。行く土地のほとんどは、じゅんさんの作品のモチーフでもある南の海。旅先でスケッチはしない。印象だけを心に刻みこむのがじゅんさんのやり方だ。
そして2人の人生に欠かせない、もうひとつの楽しみが音楽だ。
小さいころはピアノを習っていたという由紀彦さんは、中学生からギターを弾きはじめ、バンドを組んでエレキギターやドラムにも挑戦するようになった。ラジカセもない時代だ。レコードプレーヤーとラジオが一体になった「電蓄」にオープンリールをつなぎ、ラジオで流れる音楽を録音してはコピーに励んだ。
「ベンチャーズからスタートして、ビートルズやローリングストーンズも出てきて。もともとはフォークが好きだったから、PPM(ピーター・ポール&マリー)もずいぶん弾きました」

4歳下のじゅんさんは、少しだけ趣味が違う。
「私はロック少女だったの。レッド・ツェッペリンの初来日公演は前から2列目で見たんですよ」
高校時代はプログレッシブ・ロックに惹(ひ)かれ、聴いていたのはピンク・フロイドやエマーソン・レイク&パーマー、キングクリムゾン。哲学的な歌詞も、少女の胸をざわめかせた。やがて南部系の土臭いスワンプロックに興味が移り、デラニー&ボニーやリタ・クーリッジなども聴くようになった。
「中でもエリック・クラプトンは、クリームのころはもちろん、スワンプになってからもずっと好き。今も、クラプトンとストーンズは来日すれば必ず聴きに行ってるんです」
若い時代に聴きなじんだ音楽も、4歳違えば微妙にずれているものなのだ。
「だから、お互いに刺激になってちょうどいいのかも。僕が好きな曲も彼女もたいていは聴いたことがあるから、話が合うんです」

仕事を終えた夜、ときには室内に間接照明を灯し、グラスを片手に懐かしい音の数々を聞く。それは青春の日に立ち返る至福の時間だ。
リビングには、常に由紀彦さんの楽器も置いてある。じゅんさんが植物の柄を描いたミニギターは、長年つま弾くうちに壊れてしまい、今はディスプレー専用。もっぱらの愛用品は、10年前に買ったフェンダーのストラトキャスターだ。
「最近は娘も練習しはじめて。ときどき教えたりもするんですよ」
リビングに見当らない時はたいてい娘の部屋にある……とこぼしながらも、由紀彦さんはちょっとうれしそうだ。

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