鎌倉・七里ヶ浜。海水浴にはまだ少し早いこの季節、平日午前の海には、あちこちに黒い人影が浮かんでいる。波を待つサーファーたちだ。沖から寄せてきたうねりが、やがて波の形を作る。ひとり、またひとりとボードに立ち、するすると水面を滑る様子はなんとも心地よさそうだ。
「今日は穏やかすぎてだめかと思ったけど、だんだん波が出てきたね」
愛用のサーフボードにフィンをセットしながら、松村知之(ともゆき)さんが言う。横浜の自宅からは車で1時間ほど。決して近いわけではないが、ここは松村さんにとって、長年続けているサーフィンのホームグラウンドだ。晴れた、波のよい日には、仕事である金属造形の工房を出て、この海に愛車を走らせる。
海には、いつも誰かしら仲間たちがいる。ウェットスーツのまま、ボードを積んだ自転車を漕いで来る人。サーフィンのために東京からこの浜辺に引っ越し、毎日のようにボードを抱えてやってくる人。浜辺であれこれと情報交換しながら、のんびり過ごすのも楽しい。
仲間との会話は海上でも続く。慣れた「への字」ポイントまでパドリングして波を待ちながら、近くに浮く知り合いと話す。最近は病気に関する話が多いそうだ。――午後から糖尿病の検査なんだよ。――僕は最近、目の調子がねぇ。波の上でそんな会話が交わされているとは、遠目に見る姿からは思いも及ばなかった。
「への字はいい波が立つんですが、けっこう年齢が高い連中ばかりで。若い人がいると、お前らが生まれる前から、俺らはここに入ってんだよなんて話してます」
「への字」の他には「正面」「峰が原」などのポイントもある。それぞれ地形の干渉によって、波にも特徴があるそうだ。
波が来る。松村さんがボードに立つ。崩れる直前の波を切り裂くように乗りこなす姿はなんともサマになっている。見ていると一瞬のようだが、実際は波に乗っている時間は30秒以上。
「その間、目の前の波の動きを読んでワザを出すわけです。立つ位置も変えるし、スピードの調節やターンのタイミングなど、いろいろ工夫するのがおもしろい」
サーフィンを楽しむために必要なものは、サーフボードとウェア、体や道具を洗い流すための水タンクだけ。千葉や茨城に遠出する時は、折りたたみのテーブルと椅子もあれば、ゆっくりくつろぐこともできる。そしてそこに、いい波の立つ海があれば、なにも言うことはない。松村さんにとっても至福の時間である。


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