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地下鉄駅からほど近い路地。表にトクサが茂り、大がめの水草も涼しげな小体な店がある。「日本酒 豆柿」。一見、小料理屋風の構えだ。中に入ると、壁や天井までかご、つづら、銛(もり)といった民具や、いくつものこけしが置かれている。民芸調居酒屋であったかと納得しつつ、カウンターにつく。そして、初めての客は誰しも目を疑うことになる。ほの暗いカウンターの中、調理にいそしむ店主の後ろに、一軒の「家」が鎮座しているのだ。
通常なら調理スペースになるであろう場所である。そこに据えられているのは、幅約2メートル、屋根の高さは1メートルもあろうかという茅葺(かやぶ)きの民家。横には土蔵までもある。13人で満席になる小さな店内で、このサイズは迫力ものだ。L字型のカウンターを囲む客は、店の中心にあるミニチュア民家を眺めながら、店主の落合慎一(しんいち)さんの作る料理を楽しみ、杯を重ねる。

この民家は、落合さん自身の手製だ。サイズは実寸の約10分の1。2年間の構想を経て、制作に要した期間は半年。28年ほど前に完成したのだという。囲炉裏を切った板の間の左右に土間や畳の間が続き、縁側やおくどさんもある。柱には山で拾い集めた木の枝を使い、壁には土や漆喰(しっくい)を塗り込めてある。
「屋根の素材は悩みましたね。本物の茅では大き過ぎるし、ホウキをほぐしてみても合わない。2年間考え続け、思い当たったのがタワシ。国内でタワシはもうほとんど製造していなかったんですが、日本パームヤシ協会に当たり、廃業した工場から手に入れました」
時を経てすすけた風情の壁や梁(はり)は、煤(すす)や柿渋、油、ベンガラなどをミックスして塗った。金属のパーツは、火にあぶって古色を出したりもした。

こうして完成した家の中には、ミニチュアの民具や調度が並ぶ。タンス、かご、カメ、鍋や器、農具、神棚。小さな猫が縁側で寝ていたりもする。室内のディスプレーは季節に合わせて変える。夏の今は、畳の間に蚊帳が吊られ、縁側には蚊取り線香。スイカを入れた鉢、盆のお供え、花火や金魚鉢もある。それは、つい数十年前まであたりまえであったろう民家の風景そのものだ。秋になれば月見、そして正月、ひなまつり、五月の節句、婚礼……趣向をこらしたしつらえは、この店を訪れる人の大きな楽しみでもある。
横の土蔵は、骨董(こっとう)屋を想定したもの。中には仏像や器、人形。重ね置いた極小木箱の雰囲気も、いかにもそれらしい。外壁の漆喰ははがれ、竹小舞(こまい)がのぞく。これもまた古びた風情を出す苦心の産物だ。
「豆柿」の象徴ともいえるこの民家、元来は店のために作ったものではなかった。
「そもそも家を作るのが趣味というわけではないんです」と落合さん。話は小学生時代までさかのぼる。

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