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「豆柿」のスタートからすでに13年、店内の民家に並べる品々は、その後も少しずつ増えてきた。
もちろんミニサイズなら何でもいいわけではない。縮尺率が合うだけでなく、落合さん自身が気に入ったものでなければダメだ。
ある時、精巧なタンス作りで注目していた人が、京都での展示会に出品すると聞いた。知ったのは初日前日の夜8時。閉店を10時に早め、店の有り金をつかんで11時の夜行バスに飛び乗った。会場の百貨店に着くと、即座に買い、トンボ帰りした。
また、浅草を歩いていたある日、提灯(ちょうちん)屋の店先に「名入れします」の貼り紙を見た。さっそく、店でいちばん小さい提灯に「骨董豆柿」と入れてもらった。長さ5cmほどの小田原提灯だ。これは今、ミニ土蔵の入り口に掛けてある。
「提灯屋さんはきっと今も、豆柿という骨董屋があると思ってるでしょうね」

飾るものの基本は変わらない。竹や藁(わら)、木などを材料とした昔ながらの民具だ。本物の民芸の伝統が生きる手のかかった品。昭和30〜50年代に集めた品々は、店にも実家にもまだまだ大量に保管され、出番を待つ。今では作り手のなくなったもの、作る技すら失われたものも数多い。
「こうしたものが好きで作った家だから、他は、僕がいいと思うものなら玉石混交でかまわないんです。いわゆる、価値のあるものでそろえようとは思わない」
だから、粘土で手作りした面も飾れば、ドールハウス用の小物や食玩(菓子のオマケ)も置く。一方、たまに人が持ち寄る小間物などは「たいていは合わないから置きません」。
店をはじめてからも、旅にはしじゅう出かける。けれども土産に買う民具は、ここ10年ほどは山のものから海のものに移った。立ち仕事のあいまの休みに行くには、山は体力的にもきつい。沖縄や東南アジアを訪ねて海で遊ぶうち、漁具や、海辺の暮らしにまつわる品に自然と注目するようになったのだ。

今年の正月、2軒目のミニチュア民家が完成した。海の民具をそろえた沖縄の家だ。釣り用のオモリをつけた漁網、プラスチックの水草を加工した植物。浜で拾った石や流木もあちこちに使った。
「ミニチュアのサバニ(漁船)が似合う家にしたくてね。琉球瓦の屋根は陶土と漆喰で作ってみた。構想1.5年、制作1カ月です」
この沖縄の家を今度はどこに置くのか。
「今の店には置き場がないから、もう1軒、いいツマミを出す焼酎バーを開こうかと」
旅と料理と民具と。小学生以来の興味は途切れることなく続く。ちょうど60歳の、めがねの奥の目が楽しげに笑った。

子供のころから料理好きだった落合さん。梅干し作りも20代から続けている習慣だ。完成した梅干しはもっぱら料理の素材として使う。店の奥から登場したカメの中身は……汁気のすっかり抜けた、梅干しというよりむしろ干し梅。なんと15〜30年物だそうだ。店をはじめる以前に漬けた残りをまとめて保管しているのだ。表面に吹いた塩を豆腐などに振ってもよく合うとか。噛(か)みしめるとねっとりと味わい深い。

落合 慎一(おちあい しんいち)
1947年東京都生まれ。小学生のころから山歩きと料理が趣味だった。中学校では登山部、高校、大学では山岳部に所属。以後はフリーの企画編集ライターをしながら、仲間と「山の会」を作る。30代からは登山系雑誌などを中心に、旅と料理にまつわる記事を執筆、国内外各地をめぐる。NHK出版「男の食彩」で連載も。14年前から「日本酒 豆柿」店主。現在も妻の順子さんと共に、年に数回は旅に出る。沖縄の民家完成を機に「二つ目の豆柿」を構想中でもある。
豆柿のホームページはこちらhttp://www.mamegaki.com

「二つ目の豆柿へ、プロローグ展」
ミニ民家沖縄版を展示しつつ、落合さんが長年の旅で集めた民具や布、器、仏像などを販売する。

文 :秋川 ゆか
写真:長尾 浩之
(更新日:2007年08月03日)
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