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シンプルライフ

Vol.29 王様の趣味「帆船模型」を通して 多くの出会いをともに楽しむ 田中武敏さん・美佐子さんを訪ねて

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自由な人々との出会いが背中を押した

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一昨年の作「チャールズ・W・モーガン」

田中武敏(たけとし)さん宅のホビー室で、まず最初に目を引き付けるのは、ケースに飾った1隻の帆船だ。

1841年に建造されたアメリカ最古の木造捕鯨船「チャールズ・W・モーガン」。前後の長さ約80センチ、メインマストの高さはもう少しあるだろうか。サイズは本物の64分の1だという。ゆるやかなカーブを描く船体、3本のマストの間を縦横に縫う極細のロープや、緑青(ろくしょう)を吹いた銅張りの船底……。その姿は、いかにも優雅で美しい。部屋の中には、他にも数隻の帆船が置いてある。どれも皆、武敏さんの手作りだ。

帆船模型愛好家に広く知られる「ザ・ロープ」という同好会がある。その歴史はすでに32年、会員数は126名を数える。武敏さんは現在、副会長のひとり。キングスホビー(=王様の趣味)と呼ばれる帆船模型作りをはじめて、20年を迎えた。

「時間はかかるし、本当に細かい作業です。でも、作れば作るほどスキルが上がっていく。同じ趣味を通して人の輪も広がっていく。それが、楽しいんですよ」

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子供用の古いデスクが現在の作業台

育った土地は海に近く、泳ぎの好きだった子供のころから船は身近な存在だった。長じて銀行に入社してからは、ヨットクラブに加入した時期もあった。最初に帆船模型に興味を持ったのは、妻の美佐子(みさこ)さんと神戸に暮らしていた新婚時代のことだったそうだ。

「芦屋川のほとりを2人で散歩していると、模型店の店頭に帆船キットがあったんです。ああ、いいなぁと」

それまで、プラモデルの帆船なら何度か作ってはいた。パーツを張り合わせて形状をなぞるだけのプラモデルと、木造の模型とはまるで違う。けれども当時は、日本にキットの輸入がはじまったばかりで、価格は武敏さんの初任給を超える。「買えるわけないじゃないの」。美佐子さんの言う通りだ。あきらめるしかない。それ以来、帆船作りへの憧(あこが)れは消えることなく胸の奥にくすぶり続けた。

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ボートに乗せたモリやオールも手製

仕事はとにかく忙しかった。転勤も多く、残業や接待で帰宅は深夜におよび、休日はゴルフ。子供たちと触れ合う時間もままならない日々は長い間続いた。転機は、1990年に大阪で催された「国際花と緑の博覧会」(通称・花博)で、所属企業グループが出展するミュージカルシアターの館長に出向したことだった。

「開催の3年前から企画を進め、音楽家や演出家、デザイナーなど、それまで知らなかった多くの人と深いつきあいが出来ました。企業人としてがむしゃらに働いてきた自分に対し、彼らは自由社会に生きている。こういう生き方もあるんだと、目を開かされました」

銀行での勤務に比べ、時間もある程度自由になっていた。仕事以外に、本当にやりたかったことは……。ついにフランスの帆船「ラ・シレーネ」のキットを買った。

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