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スタート当初は寝室の片隅でこつこつと組み立てていた武敏さんだが、今は子供部屋だった1室が専用ホビー室。息子たちが独立した後、残った2つの勉強机が作業台だ。銀行を退職し、関連企業の代表取締役を務める現在、帆船模型作りにあてられる時間も増えた。
これまでの作品が幾隻も並ぶ中、花博の準備をしながら作った第1作は、クローゼットの奥の見えない場所に隠してある。模型店を通して知った「ザ・ロープ」の展示会に、90年に初めて出展した品だ。
「船底の張り方も汚いし、ロープの結び方も荒っぽい。船として理にかなった作り方になってないんですよ。今見ると実に恥ずかしい」
最初は誰でも、キットを組み立てるだけで精一杯。しかし、それだけでは間もなく飽き足らなくなる。かつて存在した船本来の構造や使われ方を自分自身で調べ、より精密かつ正確なものを作りたくなってくるのだ。結果として、パーツ一つひとつを手作りしたり、海外から取り寄せたり、ということになる。キットを買うのは、図面を入手するためだ。

室内には、材料や道具、参考文献など、必要なものがすべてそろっている。例えば船体を作る木材は、サクラやツゲ、ナシなどを、サーキュラーソーやシックネスサンダーといった工具でミリ単位で製材する。太さ10数種類にもなるロープは、仲間が考案した糸縒(よ)り機を使い、市販の糸を材料にして本物同様に縒る。
「航行する際にこすれて傷みやすい部分のロープは、サービングといって別のロープを巻き付けて強化するんですよ」
もちろん実際に水に浮かべて走らせるわけではない。めざすのはあくまでも「現物に忠実な姿」ということ。船内の建具も作れば、金属部品の溶接もする。モリも作り、帆も縫う。釘を打った上には本物通り、極小のダボを打ち込む。
これはひとりで営む小さな造船所だ。いや、造船所なら下請けに出す部品もすべて自製することを思えば、ひとり船大工といってもいい。それだけに、出来上がった時の達成感は格別のものだ。

制作の前には、その歴史から調べる。ベネチアのガリオン船を作った時は、塩野七生さんの著作をはじめ、ローマ帝国にまつわる本をいくつも読んだ。捕鯨船「チャールズ・W・モーガン」の場合は、英文の歴史書を読み、付属するキャッチャーボートの構造や隻数も取り寄せた資料で学んだ。
「形通りに作るだけなら、単なるモデルにすぎません。その船がどのような生涯をたどったかを知ったうえで、自分なりの解釈で再現する。会のメンバーは皆、それが楽しみでやってるんですよ」
こうして、1隻の帆船が完成するまで要する時間は、平均2年間。
「いつも、こんな細かいことをしてたのねぇ…」
ふだんは庭の野菜作りなど一緒に楽しみながらも、部屋には立ち入ることの少ない美佐子さんが、改めて驚きの目をみはる。

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