築150年を超える民家は、過疎地の小さな集落にある。冬場には、地域全体が孤立することもある豪雪地帯だ。そのぶん、自然はどこまでも豊か。建物は柱もはりもしっかりと作られ、頑丈そのものだ。
「中越地震の時もビクともしませんでした。近くの知人たちが、うちに避難に来たほど」
屋内は傷みを直して床や壁を張り、外壁にも板を張って鮮やかなブルーに塗った。タイル張りのテラスも作り、広い庭はイングリッシュガーデン風に整えた。3年前には、近くに1反ほどの棚田も借りた。ちょうど、東京のマンションを買って改装を始めたころだ。
「せっかく日本一おいしい魚沼米がとれる場所なんだから、自分で食べるぶんくらい育ててみるべきじゃないか、と」
近隣の人たちに教わって、米作に取り組みはじめた。収穫は上々。畑での野菜作りも、年を追うごとに上達してきた。
多くの仕事をこなしながら、都内と津南の2軒の改装と農作業を進めるだけでも大変な労力といえそうだが、2年前、さらにまわるべき場所が増えた。もう1軒、軽井沢の家が加わったのだ。
「たまたま新潟から長野経由で戻る時、今の軽井沢の様子が知りたくて不動産屋に入ったんです。そしたら安い別荘地が売りに出てて」

土地に建つ別荘は古く、壊すしかないという。しかも、その費用には100万円もの金額がかかる。
「でも、見ると基礎はちゃんとしているし、これなら自分たちで直せる。壊すのはもったいない」
迷うことなく購入した。改装作業を進めるべき家は3軒になった。どうしてこれほども立て続けに……?
「立て続けなのはこの数年だけじゃないんです。ずっと続いていること」とめぐみさん。
「ミゲールは、いつも人の2倍3倍のスピードで動いてて、ボーッとしている時間がないの」
津南の集落ではミゲールさんが最年少。老人たちは皆、驚くほどよく働く。
「おじいさんの雪おろしを手伝おうとしても、危ないからやめておけと言われるんだ。皆、とても元気。人間は動くことをやめると早くだめになる気がしますね」

今、2人は毎週、500キロの道のりを車を走らせる。金曜の晩に東京を出発し、津南と軽井沢を回って、日曜夜に戻るというのが基本パターン。津南では庭造りと農作業、軽井沢では周囲に茂る木を切り、建物の床や窓を作る。忙しくとも苦にならないのは、そこに確かな喜びがあるからだ。
「家を作り、食べ物を作るのは、趣味というより私自身の生き方。会社での仕事と違い、この仕事は終わることはないんです」
いずれは生活の拠点を自然の中に移し、東京の家は週末に通う事務所にしたい。音楽スタジオを作る計画もあるし、折にふれて描いてきた絵にも本格的に取り組みたい。各国をめぐってきた若い頃と同様、ミゲールさんは止まることなく前へと進み、自らの人生を切り開く。


津南の古民家では、庭に大きな露天風呂まで作ったミゲールさん。冬場はとことん冷え込むため、給湯用の蛇口をつけると凍りついてしまう。そこで、屋内の浴室からホースで湯を注ぐ方式に。わき水なので、ぜいたくにも出しっ放しにできる。湯量のせいか水質のせいか、芯から暖まり、出るときは寒さを感じないほど。雪見風呂の風情は格別。もちろん、初夏の新緑、秋の紅葉を眺めながら入るのもいい。ミネラル分の多いわき水だから、温めるとちょっと温泉っぽい香りがするのが自慢だ。

ミゲール・リーヴァスミクー
1957年サンフランシスコ生まれ。父の仕事のためウルグアイ、アメリカ、スペインの3カ国で育つ。14歳で入学した英国のパブリックスクールの寄宿生活を終えて以来、自立してイギリス、フランス、アメリカで考古学、文化人類学を学ぶ。24歳で日本に渡り、多くの大学で語学教員を歴任。著書に「もしもし英会話」「中学英語でココまで話せる」「ゴーン・ファクター」など、共著書ではカルロス・ゴーン「ルネッサンス」、サミュエル・ハンチントン「引き裂かれる世界」など、ともに多数。現在、MHRプランニング代表。明治大学法学部講師。

文 :秋川 ゆか
写真:伊田 淑乃
(更新日:2007年10月05日)
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