直彦さんの釣り経験は、小学生時代にまでさかのぼる。最初は近所の池でフナを釣って遊ぶ程度だったそうだ。ある時、父親の友人が磯釣りに連れて行ってくれた。海での釣りは初めて。そこで、いきなりクロダイを釣り上げた。 「父と3人で行って、釣れたのは僕だけ。皆、さばき方もわからなくて、近くの寿司(すし)屋に持ち込んだら、半分になって返ってきました」
半分は、寿司屋のさばき賃というわけだ。家に持ち帰り、家族で食べた。
「自分で釣った魚はおいしいんだと知ってしまいました。だから、僕は今も、食べるための魚しか狙わないんです」
以来、中学、高校と、電車で海に通っては、磯釣り・堤防釣りに励んだ。クロダイの感動は再びは訪れなかったが、キス、ハゼなどの釣果は母親の手料理となって食卓をにぎわした。当時は、持っていた竿は2、3本、リールも1個だけ。仕掛けも、市販の簡単なものがあればよかった。

いよいよのめりこんだのは、会社に入り、朋子さんと結婚してからだ。しばらく釣りから遠ざかっていたころ、同僚から船釣りのおもしろさを聞いた。1人で茨城県の日立に出かけ、カサゴ釣りの船に乗ってみた。すると数時間で、40cmもの大型が4、5尾。大満足の釣果である。
「さばいてカミさんにふるまいました。喜んでくれるのもうれしかったですね」
それからというもの、船釣りにはまった。なにしろ釣れる魚の種類は豊富だし、どれもうまい。磯や堤防にはまったく行かなくなった。
とはいっても、息子たちが中学生になるころまでは休日は家族で過ごすことが多く、一人で釣りに出られるのは年に数回ばかり。めったに行けないからには、行けば確実に釣り上げたい。そうして、魚種に合った道具をそろえていくとともに、仕掛けも自分で工夫をこらすようになっていった。

子供たちの手が離れた今、釣りに割ける時間も増えた。天候にもよるが、ほぼ月2回。その時節ごとに、食べたいものを釣りに行く。
「カミさんが『キンメが食べたい』と言えば、キンメ狙い。釣れるかどうかは、まあ、半々くらいですが」
直彦さん自身が釣っておもしろいのは、イカとショウサイフグだという。ちょっと意外な答えだ。
「イカはけっこうむずかしいんですよ。しろうととベテランの差が一番出やすい。フグもそう。カットウ仕掛けでひっかけて釣るんですが、経験が少ないと、魚体が大きくてもアタリがわかりにくい」
釣っておもしろく、食べてうまい。それこそが醍醐味(だいごみ)というものだ。

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