ダイニングの専用台に、8本の脚をくねらせた大きな木彫のタコがいる。吸盤ひとつひとつまでなんともリアルだ。幅は約50センチ。持ち上げると、ずっしりと重い。棚には美しいアメ色を帯びたサケやヤマメ。口からカエルの脚がはみ出ているのはライギョだ。最近完成したばかりだそうで、木の色もまだ白っぽい。
小池正孝(まさたか)さんの作る木彫は、海や川の生きものがテーマ。どれをとっても、イキイキとした躍動感が伝わってくるものばかりだ。これが独学で作ってきた趣味の品だいうことに思わず目をみはる。そして、作品を見ただけではとても想像できないもうひとつの驚きが……。なんと、材料は使用済みの割りばしなのだ。
「このタコには2000本の割りばしを使っています。6年前に作った会心の作。脚作りに苦心して8カ月かかりました。木だからね、時間がたつといい色あいになってくるんですよね」

退職後の17年間にわたって作った品は、大小合わせて300点以上。展覧会やイベントに出展する時以外は、気に入った作品は玄関から茶の間、ダイニングと家じゅうに飾ってある。ヒレをはためかすエイやフグ、うねりながら頭を持ち上げるウツボ、荒々しいトゲを持つオニオコゼ、干潟をジャンプするムツゴロウ……。
「だいたい1匹制作するのに2〜3カ月。こういう魚を作ろう、柄はこうで姿はこう、それには手順はどうするかと、あれこれ模索する時間がまた楽しいんですよ」
いずれの作も、必ずなんらかの新しい挑戦があるそうだ。たとえば、ヒレに横縞(しま)が入った魚なら、細くノコギリを入れて濃い色の割りばしの小片をはめこむ。ハコフグの亀甲模様は、六角形の割りばしブロックを使って表現し、ヒレのうねりは丹念に削り出す。アジではゼイゴをどう表現するかで半年悩んだ。巨大なシーラカンスでは、ごつごつした感じを出すためにウロコの作り方を変えたはいいが、あまりの手間にほとほとイヤ気がさし、完成目前にして1年余りの中断中だとか。

「もう割りばし7000本くらい使ってますが、最近では未完成の姿も美しいんじゃないかな、と。ミロのビーナスも、欠けているからこそかきたてるものがあるでしょ。いや、言い訳ですが」
制作の場は茶の間の一角だ。座れば、すべての道具や資料に手が届くような小さなコーナー。作りかけのシーラカンスもそばにある。しかし茶の間ということは、つまり食後には家族でくつろぐ場でもあるということだ。
「私がテレビを見ている横で、いつもコリコリ作ってるんですよ」と妻の珠子(たまこ)さん。正孝さんは「他に部屋がないですし。テレビを見るつもりで座っても、ついでに少し材料を作っておこうかというふうにできる。なかなかいい具合になってるんです」
正孝さんオリジナルの割りばしアートは、そんな日常の風景のなかで生み出される。

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