自宅にあるのは、もちろんコンペイトウ瓶ばかりではない。診療所同様、玄関の陳列ケースから2階の2室、屋根裏、クロゼットまで、どこもちょっとした倉庫のようだ。グリコのおまけ、ドロップ缶、少年マンガ誌、クレヨン、日光写真、メンコ、羽子板、写し絵、消しゴム、絵はがき……集めてきたもののジャンルはとにかく多彩。高校時代にスタートしたロカビリーのレコードコレクションも、300 枚以上になる。中には満鉄の茶瓶、お歯黒入れ歯などというめずらしいものも。
「本当にあれこれと雑多にあって、恥ずかしいんだよね」と言う英次さんだが、診療に忙しい毎日、好きなものに囲まれて過ごす夜は至福の時間だ。
瓶やおもちゃなど古いものを探す旅には、洋子さんもしばしば一緒に出かけてきた。近場だけではない。北海道の古道具屋、沖縄のおもちゃ屋、いろいろなところに行ったそうだ。
「いろいろ集めていても、うちの奥さんには一度も反対されたことがないんです」
「確かに可愛いものやきれいなものも多いですしね。私自身は選ぶ自信はないですけれど」と洋子さん。
それにしても、家じゅうをコレクションに占領されている暮らしとは、妻から見てどうなのだろう。
「私の部屋も取られちゃったけれど、まあいいかな」
洋子さんはあくまでゆったりとした構えだ。こうした理解あってこそ、英次さんもとことん 趣味に没頭してこられたわけだ。

今、コンペイトウ瓶収集は一段落。質のいいものはあまり出回らなくなったし、ここまで集めた達成感もある。また、休みのたびに夜明け前から骨董市に出かけるのも少々つらくなってきた。
「近ごろは、2人で山奥の温泉に行って、山登りなどして楽しんでいます」と英次さん。若いころはハイキングに親しんだ洋子さんにとって、山や自然は心なごむ場だ。ときには何の計画もなく出発することもある。新幹線に乗ってから行き先を決めたり、ドライブしているうち数県を回ったり。「奥さんをだまして散歩に誘い、そのまま羽田空港に行って空席切符を買い、九州一周しちゃったこともありますよ」
洋子さんは「主人は昔からいたずら好きなんです」と苦笑しながらも、けっこう楽しそうだ。

コンペイトウ瓶以外のコレクションは、今も少しずつ増え続けている。昨年、ネットオークションで落札したセルロイドの人形は、洋子さんもお気に入りだ。
「子供のころに遊んだのが懐かしくて。顔も可愛いから、私のものにしちゃいました」
これからは少しずつシンプルな生活にしたいと話す2人。けれども、古い雑貨にふれる楽しみは、当分手放せそうにない。


英次さんが最近手に入れたばかりという、ローマ時代の武器を思わせる、ちょっと物騒なしろもの。これはいったい何なのか。「角(つの)看板と呼ばれる、コンペイトウ屋の看板なんですよ」。かつての日本には、こうした看板を下げたコンペイトウ屋が数多くあり、明治時代に来日したエドワード・S・モースの日記にもスケッチが残されているという。秋田県には木製のものが保存されているそうだ。これはブリキ製。「ある旧家にあったもので、これまでどこの骨董屋も興味を持たなかった品。非常にめずらしい出物です」

栗原英次(くりはら えいじ)・洋子(ようこ)
英次さんは1943年東京都生まれ。収集好きで、切手や昆虫標本にはじまり、16歳でウエスタン・カーニバルに行ってからはロカビリーのレコードも集め続けている。日本歯科大学卒業後、歯科医院を開業。コンペイトウ瓶コレクションは30代の初めから。著書に「いろはにコンペイトウ」(にじゅうに)。洋子さんも同じく東京都生まれ。小学生時代から英次さんの父の患者だった。薬剤師を務めていたころ、双方の親の勧めで結婚。専業主婦として子育てをしつつ、薬学知識で英次さんを助けてきた。長女は内科医として公立病院に勤務。現在は夫婦2人暮らし。

文 :秋川 ゆか
写真:伊田 淑乃
(更新日:2007年11月16日)
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