3年前に完成した1号機を両手に乗せてみた。まるで重さを感じない。なにかふわっとしたものが乗っているというだけの感覚だ。次に、1.093グラムの2号機。これはもはや、重量という言葉すら無意味に思える。わずかに手を動かしただけで飛び去る、綿毛のごとしだ。
それでも、必要なパーツはすべて装備されている。
モーターは直径3.2ミリ。携帯電話の振動用に使う、世界一小さいモーターだ。これは、国内の専門メーカーに数カ月かけて頼み込んでわけてもらえるようになった。最初は10万個単位でしか取引できないと言われた。やがて、1000個ならば、という話にはなったが、まだ多過ぎるし、価格も1個2000円。社長に直接、目的を話し、ついにはひとつ520円、100個からOKという形にこぎつけたそうだ。これで、軽量化をめざすプレーン仲間にも、安心して分けることができるようになった。バッテリーは、この秋に発表された0.369グラムの超軽量型を採用。数ミリ角のごく小さな受信機は自身で開発したものだ。バルサ材は、組織が粗く軽いものを探し、より細く削った。翼に張るフィルムも、0.9ミクロンから0.5ミクロンの厚みに変えた。
これはいったい、どんなふうに飛ぶのか。

地元の体育館で月1回行う、湘南スローフライヤークラブの飛行会をのぞいてみた。超軽量の機体は、わずかな空気の動きにも影響を受ける。手に持って屋外に出るだけで壊れることすらあるという。閉めきった体育館は、飛行実験に最適の場所だ。
97回目の開催日。10数人のメンバーが手製のインドアプレーンを持ち寄り、思い思いに飛ばす。バルサ材タイプあり、発泡スチロールタイプあり。カーボンで骨格を作った、はばたきタイプというものもある。新作が登場するたび、皆がいっせいに集まる。不調が見つかれば、互いに改善のアイデアを出し合う。田中さんは、ここではいわばオブザーバー。
「今は自分で飛ばすよりもむしろ、ときどき皆さんの相談に乗る感じですね。入門者を育てながら、ゆっくり楽しめればいいんです」

A6-2号機を飛ばしてもらった。片手で胴体を持って、ふっと前方に押し出す。機体はふんわり空に浮かぶ。手の中に納まる小さなコントローラーで右へ、左へ。なんともゆるやかな速度。のんびりと散歩するくらいと言ったらいいだろうか。「癒しの飛行」という田中さんの言葉を実感する。ふわふわと漂わせ、手のひらにすいっと戻してキャッチする。これこそが、インドアプレーンがめざす飛び方なのか……。
「でも、決してこれで満足はしていません」と田中さんは言う。「家の中で飛ばすには、もっと軽く、もっと翼を大きくしなければ」
目標は、バッテリーを含めた1グラム切り。究極のインドアプレーン実現をめざして、世界のマニアが、田中さんの技術に注目する。


市販のオーブントースター。でも、パンは焼けない。実はこれ、集積回路の焼き付け用だ。学校などから大量の受信機注文が来た際に、ひとつひとつ手でハンダ付けしていては間に合わない。「超零細企業ですが、若干の量産化を図ろうと……」。最初は台所のホットプレートを流用しようと考えたが、妻の強硬な反対にあって断念。そこでオーブントースターに制御装置をつけて、一度に熱を加えられるよう改造したのだという。「電気って本当に楽しいですよ。こんなものがあったらという夢を、全部実現してくれます」

田中 光一(たなか こういち)
1942年東京都生まれ。小学生の時から電気に興味があった。電機専門学校を出て、事務機器メーカーで勤務したのち、家電販売店へ。26歳から支店長を務め、やがて独立して電器店を設立する。模型飛行機作りは10代からの趣味。30代での中断を経てラジコン機制作を復活し、50代からはインドアプレーンの技術開発と普及に努める。湘南スローフライヤークラブ主宰。著書に「PICマイコンでつくるインドア・プレーン」「みんなで作ろうインドア・プレーン」(CQ出版)など。
ホームページは、http://www.cityfujisawa.ne.jp/~toko/

文 :秋川 ゆか
写真:伊田 淑乃
(更新日:2007年12月07日)
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