斉藤さん宅で、車とともに気になる存在が、数多くの骨董品だ。玄関に飾られたガラス器ばかりではない。ガレージの中にまで、古陶器や昭和初期の各務鑛三(かがみこうぞう)のコレクションがある。
「古いものはもともと好きで。どんなものも、初期のものには独特の力があります。それまでなかったものを作り出そうというパワー。それは車も骨董も同じですね」
最初に集めはじめたのは古伊万里の器。妻と一緒にあちこちを回り、ふだん使いの食器も古伊万里で統一した。使うには惜しい、いい品はガレージに飾る。初期の地図皿や、藍(あい)九谷、古九谷、柿右衛門の濁手(にごしで)の皿なども、2000GTに並んでさりげなく置かれているさまには驚かされる。ガラス器は、江戸時代の切子や吹きガラス。氷コップにひかれたのをきっかけに、より細工の手のこんだ古い時代のものに移行し、もう20年になるそうだ。1個しか現存していない杯や風鈴、美術館に幾度か貸し出している切子や練り上げ手のガラスなど、こちらも貴重な品ばかり。

「骨董は、美術館にも置いていない品が出てくると、いつ作られたどういうものか自分で読み解くしかない。そこにロマンがあります。車は逆に、調べれば調べるほどわかってくることがある。それもまたおもしろい。いずれも、当時の人々の感動を今に感じることができる、タイムマシンのようなものなんですよ」
切子の繊細さ、工夫を重ねた色彩の妙……丹念に手作りされた陶器やガラス器からは、細部を見るほどに職人たちのわざが伝わる。一方の2000GTもハンドメードだ。中を見ると、ハンマーでたたいて組み込んだ跡なども残っている。
「考え抜いて作った跡を見るたび、作った人の思いを共有できる気がするんです」
そうした品こそが、斉藤さんにとっての「トップ」であり、「オンリーワン」。希少性や市場価値は問題ではない。持つことで得られる精神の充足こそが、なにより大切なのだ。

「若い時に買った2000GTも、ふさわしいオーナーになるために車の全部を理解し、判断できるよう努力しました。こういう車は、10年くらい乗ってようやく自分が成長してきたのがわかる。そう思えば、安い買い物です」
300万円の車に乗りながら上を見続けるよりも、500万円出して本当に好きな車を持つのが自分にとってのトップ。人生においていちばんいいことだ、と斉藤さんは言う。
「今も『おまえもまだまだだな、もっと大きくなれよ』と車に言われている気がするんですよ」
エコの時代に逆行する車であることは重々承知。それでも33年間、愛着を重ね、ともに過ごしてきた愛車は、かけがえのない相棒だ。


ガレージの中には蛍光灯のほかに、小さなハロゲンライトも下がっている。2000GTの右側に2個、左側には4個。これは、愛車をいかに美しく見せるか考えた末のもの。「この灯(あか)りでないと、車体のラインがきれいに出ないんです」。両側を点灯したり、どちらか片側だけにしたり、光のあて方を変えては楽しんでいるのだとか。「片方だけつけると、貴婦人が静かに眠っているようでしょ」。フェラーリのほうは? 「こちらは野獣が息を殺してたたずんでいるみたい」。見ていると、なるほど納得。

斉藤 正典(さいとう まさのり)
1952年東京都生まれ。子どものころは休みには、父の実家である福島の茅(かや)葺き屋根の農家に遊び、古いものに親しんで過ごした。工業高校を出て、兄とともに家業を継ぎ、発電所のタービンやモーターのメンテナンスを広く手がける。24歳で、高校時代からあこがれたトヨタ2000GTのオーナーに。1982年には、2000GTオーナーズクラブを立ち上げる。食への興味も深く、都内でイタリアンレストランを経営していた時期も。古ガラスのコレクターとしても知られている。今年、独立して斉藤テクノサービスの事業をスタート。夫婦2人で、犬3匹、猫1匹と暮らす。

文 :秋川 ゆか
写真:伊田 淑乃
(更新日:2008年02月01日)
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