「この空間は、コイノニアと名付けています」と小川さん。
コイノニアとはギリシャ語。古来、教会など人々が集まる場所を意味し、「コミュニケーション」の語源にもなった言葉だそうだ。人が交わり、ものが集まり、なにか思いもよらない有機的な変化を遂げる場に――。このネーミングには、小川さんのそうした思いがこめられているのだろう。
それにしても、ありとあらゆる「もの」が室内を埋め尽くすさまは壮観だ。壁や床に配置された品は、知人のアーティストによるいくつかの作品を除き、みな小川さん自身で制作したものだ。
ついつい笑みのこぼれてしまうものも数多い。たとえば、馬の頭がい骨はメガネをかけ、写真の引き伸ばし機と組み合わせたランプになっている。枯れたバナナの枝は、インドネシアの古いフレームと合わせて壁に掛けた。シトロエンのブレーキパッドも、交換後はなにかしらの材料になる。ワイングラスやトンボ玉と組み合わせてろうそく立てに、あるいは折り曲げたワイヤと一緒にオブジェに。よく見れば、テレビの真空管や、バイクのモーターも、作品の一部として思いもよらぬ精彩を放っている。

「捨てられていたものからも、パッとひらめく。それが楽しいんですよね」
揺れるはしごを上って2階のロフトへ。このはしごは、建設時にあえて鉄筋で作ってもらったもの。主張の強い階段をつけるのがいやだったからだ。ロフトは比較的すっきりとした空間なのだが、やはり楽しげなオブジェも多数。しかも、明かり取りの小さな窓には、青と赤の塗料がランダムに塗ってある。
「僕自身や訪れた友人がここで眠ることも多いから、日差しのまぶしさをさえぎりたくて。それで、残った塗料をシトロエンの窓に塗ってみたわけ」
どこまでも自由なのである。その発想も行動も。それはなぜなのだろう。

横浜で生まれ、小さいころは海運業を営む父に連れられて、造船所などをしじゅう見に行った。5歳の時、家族ともども、祖父母の住むこの土地へ。敷地裏の樹木の上に自分で小屋を作り、一人海を眺めて過ごすような子供だったという。
「組織で働くには向いてないと自覚したのは中学生くらい。一人でやっていける仕事を考え、いとこが歯科医だったこともあって、同じ道をめざしたんです」
大学で美術部に入った。初めて絵筆を持って以来の日々は楽しく、嫌いな勉強もそれがあるから乗り越えられた。結婚は大学を卒業してすぐ。同級生の診療所で偶然出会った女性が美術好きで、絵の具を買いに行く手伝いをしたのが縁になった。
数カ所の病院、診療所で経験を積んだのち、開業したのは30歳の時だ。通勤がなくなった分、多少の時間のゆとりも持てる。仕事のあい間を見てはアートにふれ、自らもものを作ることが日常になった。

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